貧しくなった世界を「中国が牛耳る」という悪夢 ポスト・ウクライナのグローバル世界の行方
橋爪:労働者も、単純なマニュアルワーカーが増えるだけで、管理職が必要なくなって、ホワイトカラーがいなくなり、ブルーカラーはホワイトカラー並みの収入を得るということもなくなり、中産階級が総退場していった。そして、すべての富を得るスーパーリッチがほんの一握りどこかの国に出てくるだけで、あとの大半以上は裕福ではないという、そういう世界に近づいているわけです。
もしこのとおりだとすれば、リベラルデモクラシーって、いいことあんまりないですよね。夢も希望もない、貧しい不満たらたらの若者が出てくるだけだ。そして、知力のある人たちは、大学や大学院に行って、ローヤーになったり、エンジニアになったり、サイエンティストになったりして、スーパーリッチの取り巻きになって、おこぼれをもらう。こういう世界が一番効率的とされているんですよ、今は。
大澤:圧倒的非対称の世界というやつですね。
中国共産党が世界の「配分」を決める“悪夢”
橋爪:そうです。何に問題があるか。配分に問題がある。すばらしい効率で誰かが1カ所での最適解で富を生み出すこと、これは人類全体に対するプラスになるから悪いことではない。その富を社会保険とか医療保険とか教育とか、それから、インフラ建設や地域社会に再配分する役割をローカルな政府が担っていた。
しかし、そのローカルな政府の頭越しに富が生産されて、頭越し富が動き回っている。古典的な国民国家って、こういうことになすすべがないんですよ。
大澤:うん、そのとおりですね。資本の流れは、もう国民国家とは関係ない。
橋爪:じゃ、どうすればいいか。資本がそう動くのであれば、資本に対応して、グローバルな再配分の仕組みを今からこしらえなきゃいけない。これは国民国家を超えた権力だから、条約としてやると、力が弱いかもしれない。どんな形がいいかまだよくわからない。よくわからないけど、これをつくらないと、人々にはあまりに希望がない。
資本が蓄積し技術が発展することが、自分たちの幸せに結びつくとは思えないし、実際に結びつかない。これが私たちのいま現在直面している問題だと思う。
さて、中国はこの配分を中国一国でやろうとしているんですよ。中国は十分大きいから。どこに資本があるか、どこに技術があるか、誰にどういう配当するかは、市場に決めさせず、中国共産党が決めるというわけ。中国の大部分は国営企業なので、企業全部に共産党の委員会があって方針を決めています。だから、中国共産党という仕組みは、グローバル化に対応する一つのオプションともいえる。
もしこれが唯一の解決法だとしたら、世界中に共産党をつくり、北京を本部にして、各国に中国共産党の支部ができる。これは一つのやり方だけど、悪夢でしかないね。権力でこの悪夢をやるという話だから、自由の真反対だ。