貧しくなった世界を「中国が牛耳る」という悪夢 ポスト・ウクライナのグローバル世界の行方
大澤:それは本当に悪夢ですよ。しかもありえない話ではない。この数年でまさに自由主義圏の台湾がそういう世界に呑み込まれようとしています。香港はもうすでに自由を失ってしまっていますし。
橋爪:自由を守ったまま、配分を行うというのは、大きな宿題ですね。だから、中国共産党のやり方に反対し、中国のやり方を魅力のないものにしていこうとするなら、アメリカも西側世界も変わらないと駄目だと思う。バーニー・サンダースでは駄目だ。大学の学費無料化とか言って、それ以外の提案がないじゃないですか。素朴すぎる。もっと大きな理念がないと。
国民国家を超えた再配分を考える
大澤:今の橋爪さんの意見は、ほぼ100%賛成ですね。今のお話をウクライナに置き換えてみると、問題が見えやすいかなと思うんです。この戦争のきっかけになったのは、ウクライナがロシアを取るか、ヨーロッパを取るかという選択の中でヨーロッパを取ったことが原因になっていますね。
ヨーロッパに象徴される西側というのは、よく考えてみると、多くの問題を抱えているわけです。決して西側がうまくいっているわけじゃない。西側は今、橋爪さんがおっしゃったように、極端な格差が起きたりとか、EU内の国家間でもその格差でぎくしゃくしているところがある。
そこで仮に今回ウクライナが戦争に勝利して、西側に統合したときに、ウクライナが「ああ、よかったね、ハッピーになりましたね」となるんだろうかという疑問もある。むしろその逆で、西側諸国のEUの中の最貧国として搾取される可能性のほうが高いんじゃないかと思うんです。
しかも、ウクライナが万が一戦争に勝つとすると、これはNATOやアメリカ、ヨーロッパに支援されたおかげで勝ったということになります。そうすると、ウクライナはもう戦果を上げるほど、西側諸国の言うことを聞かざるをえない状態になっていくでしょう。だから戦争に勝った後も、素直に喜べない状況が待っていると推測してしまうんですよ。
橋爪:しかし、ロシアに呑み込まれるよりはずっといいだろうと思うよ。問題は山積しているとしても、主権は維持できているのだから。
大澤:それはそうなんですが、僕が何を言いたいかというと、政治理念の対立としてだけ見るなら、もっと圧倒的多数が西側やヨーロッパに参加することがすばらしいねとならなきゃいけないと思うんですよ。なぜそうならないのかと言うと、西側の理念の現実化に何か根本的問題があるからです。
大本であるアメリカも、今、大きな危機を迎えていますね。民主主義の危機です。トランプはいまだに選挙の敗北を認めてないし、それに媚びを売って出てくる共和党員がいっぱいいて、そして、思いのほか議席数を増やしている。何というか、民主主義の最低限の前提である選挙に対する信頼そのものを壊している。
ですから、リベラルデモクラシーを守ると言いながら、そのデモクラシーの中心にあるアメリカ自身のデモクラシーが破壊されそうな状態になっていますよね。
トランプが成功してしまう背景にも、アメリカの中産階級の崩壊のような、いま言った格差に関係する問題があります。この問題を最終的に解決しようとすれば、やはり、橋爪さんがおっしゃったように、グローバルなレベルでの再分配しかないんですね。これに近いことは、いろんな人が言っています。