貧しくなった世界を「中国が牛耳る」という悪夢 ポスト・ウクライナのグローバル世界の行方

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大澤:トマ・ピケティが『21世紀の資本』(2013年)の中で最終的に出している解決法は、グローバルなレベルでの、資産も含めた累進課税です。累進課税。最近ピケティは、自分のことを社会主義者であるとはっきり言っています。世界レベルでの社会主義的な再分配ができるような政府をつくるとも。再分配の資金源として、例えば環境税を取るとか、そういう問題との関係で結構真面目に計算したりしています。まあいずれにしても、グローバルな再分配しか答えがないわけですね。

橋爪:うん、いろいろな人が知恵を絞っても、その最適解がなかなか見つからない。これは本当に大事な問題です。

ポスト・ウクライナのグローバル世界の行方

大澤:そうすると、ますます元の問題に戻ってくると思うんですね。つまり、グローバルな再分配をするということは、主権国家を超えるような主権をグローバルなレベルでつくるということになります。しかもそのうえで、橋爪さんがおっしゃったように重要なのは、自由を守るということですよね。この2つを両立させることがいかにしたら可能か──。

僕らが20世紀までに持っていた解答は、基本的には、国民国家レベルの主権を認めて、その範囲で再分配をするという作戦だったんですね。それは20世紀モデルでは、そこそこうまく回転していたんだけれど、橋爪さんがおっしゃるように、資本は国民国家よりも大きいし、国民国家とは関係なしに動くために、国民国家のレベルでの再分配がうまく機能しなくなってしまったんですね。

橋爪:そういうことです。

大澤:国民国家の再分配がうまくいかなかったから今日があるのに、現在の僕らの処方箋は、まだ国民国家レベルの再分配を何とかしようとうろうろしている。でも、それはうまくいかないのはわかっている。国民国家を超えたレベルでの再分配ができるシステムが必要だというのはわかる。

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しかし、そのためには、そのレベルでレジティマシーを持つような機関、あるいは地球レベルの全ポピュレーションを含んだような、非常に強い信頼というのを確保しなくちゃいけない。これは、いま起きているロシアとウクライナの戦争をどう収めるかという問題よりもはるかに大きな問題ですね。

でも、その一つの試金石として、橋爪さんと僕はこの点では一致すると思いますが、とりあえず中国に対してどう対応していくかというプロセスの中で、中国よりも魅力的で、かつ効率的なシステムをグローバルなレベルで考える、つくっていくということですね。気がついてみれば一歩近づいたぞという構造になるというのが一番望ましいのですが。

橋爪:そうですね。『おどろきのウクライナ』でも再三言っていますが、人類の未来を、人権も自由も平等も無視した権威主義的な資本主義に決して渡してはならない。ポスト・ウクライナのグローバル世界は、困難ではあるけれど、その気概だけは忘れず、前進していくしかないと思います。

(構成・文=宮内千和子)

橋爪 大三郎 社会学者、大学院大学至善館特命教授

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はしづめ・だいさぶろう / Daizaburo Hashizume

1948年神奈川県生まれ。大学院大学至善館特命教授。『はじめての構造主義』(講談社現代新書)、『皇国日本とアメリカ大権』(筑摩選書)、『中国VSアメリカ』(河出新書)など著書多数。共著に『ふしぎなキリスト教』(講談社現代新書、新書大賞2012を受賞)、『おどろきの中国』(講談社現代新書)、『一神教と戦争』(集英社新書)など。

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大澤 真幸 社会学者

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おおさわ まさち / Masachi Osawa

1958年、長野県生まれ。社会学博士。千葉大学助教授、京都大学教授を歴任。2007年『ナショナリズムの由来』(講談社)で毎日出版文化賞、2015年『自由という牢獄』(岩波現代文庫)で河合隼雄学芸賞受賞。ほか『不可能性の時代』(岩波新書)、『三島由紀夫 ふたつの謎』(集英社新書)など多数。共著に『ふしぎなキリスト教』『おどろきの中国』『げんきな日本論』(講談社現代新書)

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