クルマのDX化「ソニー×ホンダ」の目論見はなにか 「XR」が創り出すクルマと移動の新たな価値

拡大
縮小

既知の通り、日本の労働者の賃金は上がっていない。一方で、外出すれば交通費やガソリン代、飲食などなにかとお金がかかる。グローバル経済の中での、円の価値の低下も大きい。円安と物価上昇のダブルパンチである。一度上がった価格が下がらないのは、いつものことだ。

しかも、デジタルシフトの加速とコロナ禍で多くの人々が得た家の中での余暇時間は、そのほとんどが無料か月額1000円程度のサブスクで消費できるから、外出しなければいけない理由もなくなってきている。

”移動“は絶対になくならない。だから…

しかし、 “移動”がなくなることはないし、クルマ所有のニーズもなくならない。安くないイニシャルコストがかかってもクルマを所有する理由は、なんだろうか。多くの人々にとってクルマを保有する背景となるニーズは、大きく次の5つだろう。

・一定以上の頻度で継続的に移動する
・複数箇所に行く必要がある
・電車やバスで行きづらい場所へ行くことが多い
・子どもを連れての外出が多い
・荷物をともなう外出が多い

加えて「プライベート空間を確保した移動をしたい」というニーズもあるだろう。自動車メーカーは移動手段としてクルマを供給することで、既存のニーズに寄り添いつつ、それと同時に新たな移動ニーズを掘り起こす必要がある。そうしなければ日本市場の縮小は止まらない。

前述のソニー・ホンダモビリティやホロライドは、今後どういった移動ニーズを満たしてくれるのだろうか。

ソニー・ホンダモビリティの代表取締役会長兼CEO 水野泰秀氏(右)と代表取締役社長兼COO 川西泉氏(写真:ソニー)

すでにアウディで採用され始めたホラロイドのシステムは、観光資源としての活用が期待できる。天候や季節によらず観光できる点が強みだ。例えば、雨であっても晴れているときの絶景を楽しむことができるだろうし、一度に四季を感じることもできるだろう。

ソニー・ホンダモビリティもホロライドと同様、もしくはそれ以上の多種多様なエンターテインメントを提供してくるはずである。BEVとの掛け合わせによる、ポテンシャルにも期待したい。

ソニー・ホンダモビリティが提供しようとしている価値が、今後新たな移動ニーズを喚起するのか。いつの日か実現する自動運転時代も見据えた、可処分時間の奪い合いにおけるクルマの新たな価値に注目していきたい。

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三浦 太郎 インテージ シニア・リサーチャー

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みうら たろう / Taro Miura

北海道大学大学院理学院卒業後、インテージ入社。自動車業界におけるマーケティング課題の解決を専門とし、国内最大規模の自動車に関するパネル調査「Car-kit®」の企画~運用全般に従事。

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