「人類最強の痛み」尿路結石症治療に新たな可能性 糖尿病治療薬に「結石の形成抑制作用」明らかに

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このようにTULなどの治療をするかどうかは、患者の状態を総合的に考慮して判断される。結石を除去しても結石ができやすい状態は変わらない。そこで阿南氏は、TULなどで結石を除去したあとも患者のフォローアップを実施。外来で定期的に経過観察を継続しながら、再発を予防するための生活習慣の改善法を指導したり、管理栄養士がダイエットのやり方を指導するようにしたりしている。

阿南氏は「たかが尿路結石、されど尿路結石」と強調する。適切な治療で結石を除去しないと腎機能が低下し、最終的に腎不全を招くおそれがあるからだ。

腎臓の主な働きは、尿を作って排泄することだ。結石により腎臓が腫れている状態(水腎症)が長びくほど腎機能の低下をまねきやすい。また、結石によって尿の流れが悪くなると細菌感染が起こりやすく、腎盂腎炎を引き起こすこともある。腎盂腎炎では39~40°の高熱が生じるだけでなく、血流を介して全身に細菌がまわれば、敗血症の危険が生じる。適切な治療をしなければ、生命を脅かすことさえあるのだ。

3年前の医局での会話がきっかけ

この病気がやっかいなのは、激痛が生じることもさることながら、再発率が5年で約45%、10年で約60%と高いという点だ。

食の欧米化や、メタボリックシンドローム(内臓脂肪の蓄積に加えて、脂質異常、高血糖、高血圧のうち2つ以上当てはまった状態)との関係も指摘されており、現代人の多くにとって他人事ではない問題だ。

過去に尿路結石症にかかった人は再発を恐れ、日々を暮らしている。だからこそ、阿南氏らの研究に期待が集まる。

今回、腎結石の形成を抑える作用があることがわかった糖尿病治療薬は、「SGLT2阻害薬」というものだ。

血液中のブドウ糖は腎臓で尿の中にいったん排出された後、再度、血液に取り込まれる。この再吸収を行っているのが、SGLT2というタンパク質で、SGLT2阻害薬はその働きを阻害することで、余分な糖を尿と一緒に体から出して血糖値を下げる。

泌尿器科医の阿南氏がなぜこの薬に着目したのかーー。それは今から約3年前にさかのぼる。

東北医科薬科大学病院の医局で、腎臓内科で各種薬剤の効果の基礎研究をしていた廣瀬卓男氏(東北医科薬科大学医学部非常勤講師/東北大学大学院医学系研究科助教)と交わした会話がきっかけだった。

再発率の高い尿路結石症の治療薬を探しあぐねていた阿南氏は、会話の中で廣瀬氏がSGLT2阻害薬の腎臓保護作用を研究していることを知った。意見交換をするうちに、同薬での尿路結石症治療の可能性を研究しようと意気投合した。

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