G20首脳宣言に見る「綱渡り」の国際協調主義 求心力失いバラバラになる世界をどう止めるか

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ポスト冷戦期と現在の外交空間の構造の大きな違いは、かつてのアメリカが持っていたような、国際社会の秩序形成と維持に大きな力を持つ国が存在しないことだ。国内の分裂に悩むアメリカに多くの国を率いる影響力はもはやない。その結果、発展途上国が国益実現などを目的に独自の行動をとりだした。

「グローバルサウス」の正体とは何か?

これらの国々は最近、「グローバルサウス」といわれ注目を集めている。しかし、冷戦時代の「第三世界」のようにまとまった集団を作っているわけでもない。インド、エジプト、トルコ、イラン、韓国などミドルパワーと呼ばれる国々は、政治体制も経済システムも異なっており一塊になって結束するわけでもない。つまり世界は求心力を失い、徐々にバラバラな方向に向かっているのである。

第2次世界大戦後、アメリカ主導で構築された自由、民主主義、市場経済という国際秩序は、台頭する権威主義を前に揺らぎ勢いを失って久しい。そしてロシアによるウクライナ侵略は「国家の主権尊重」「力による現状変更の禁止」という国際秩序の根幹を破壊するという衝撃を世界に与えた。

ロシアによるこの「おきて破り」を誰も咎めることができないまま黙認するようなことになれば、この先、似たような行為をする国家が出てくる可能性が高まる。北朝鮮やイランなどは核兵器を振りかざすかもしれない。領土的野心を持つ国はためらうことなく侵略行為を展開するかもしれない。

にもかかわらず国連安保理などの国際機関が機能せず、アメリカなど力ある国がそうした行為を抑止することができないとなると、その先に見えるのは国際的ルールや秩序が力を失い、各国が自国の利益追求に奔走する世界、国益実現のために軍事力など力がものをいう19世紀的世界だ。

同時に懸念されるのは、気候変動や人権問題、格差拡大や貧困問題など地球規模の課題に対する関心の低下だ。

次ページ気候変動問題のCOP27でも大国間対立が目立った
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