G20首脳宣言に見る「綱渡り」の国際協調主義 求心力失いバラバラになる世界をどう止めるか

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全体としてロシア批判が基調となっていることは事実だが、細部にはさまざまな政治的配慮がなされている文書である。やむを得ないことだが、ウクライナ戦争を終わらせるための具体的な対策を盛り込むことはできなかった。それでもロシアを含めた多国間の首脳会議が首脳宣言に合意したことは、もちろん高く評価すべきことだ。

ロシアにとっては痛くもかゆくもない

だからといって、ウクライナ戦争の今後を楽観できるわけではないことはいうまでもない。激しい戦闘が日々繰り返されている中、有効な手立てなどないだろう。したがって、ロシアにとっては痛くもかゆくもない文書である。

ロシア政府は首脳宣言を「バランスの取れた文書」と評価し、いち早く大統領府のホームページに全文を掲載した。そればかりか、これ見よがしにウクライナに90発のミサイルを発射し、宣言をまったく意に介さない姿勢を見せている。

外交的な成果は全体会合だけではない。G20に続き、タイで開かれたアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議を含め、一連の会議に集まった各国首脳が活発に2国間の首脳外交を繰り広げた。

最も注目されたバイデン大統領と習近平主席の会談は3時間にも及んだ。終了後、当たり障りのない内容が公表されているが、ウクライナ戦争だけでなく懸案のウイグル問題などの人権問題、台湾や香港、南シナ海などの問題で激しいやり取りが繰り広げられたであろうことは想像できる。また日本にとっても日韓、日中の首脳会談が久しぶりに行われた、重要な外交の場となった。

即物的な成果がなくとも、多国間あるいは2国間で深刻な問題について首脳同士がそれぞれの立場や主張をぶつけ合うことは、対話のない状態の中で非難し合うよりはるかに建設的なことである。

しかし、世界全体を見ると外交空間は極めて厳しい状況にある。G20やAPECが首脳宣言を合意できたことは、世界の分断や分裂をかろうじてつなぎ止めたといえるだろう。一方で米中ロという大国の対立に大きな変化はなく、問題解決の糸口は見えていない。

そればかりかロシアのウクライナ侵略、米中間の経済や安全保障の分野での衝突が状況をより深刻化させている。その結果、国連安保理を筆頭に国際機関が完全に機能不全に陥り、国際協調主義の危機が叫ばれている。

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