アメリカ株はひと休み後、結局再上昇しそうだ 今の市場の動きは「はしゃぎすぎ」ではない

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だが、主要国の株価足踏みの主要因は、10月半ば以降の上昇を受けて、「いったん戻り売りをしておこう」との動きが強まったためだと解釈する。とすれば、そうした利食いをこなしながら、年末まで小休止を交えながらの株価上昇基調が続くと見込んでいる。

それと、先週についても今後に関しても、アメリカ株がひと休みする要因としては、連銀からの牽制とアメリカ経済の底堅さが挙げられる。

「連銀は『株価は下がれば下がるほどよい』と考えているのではないか」といった見解をよく聞くが、その説は疑わしい。ただ、株式市場や長期債券市場が「連銀はもう余り政策金利を上げないに決まっている」との決めつけで暴走し、そうした楽観的な展望が広がりすぎると、経済活動が大きく支えられて需要面からインフレが解消されにくくなるおそれが強まる。その結果は、より大幅な利上げとなり、かえってアメリカの経済や株価を最終的に著しく傷つけてしまうかもしれない。

そのため、市場が楽観に走りすぎていると連銀が判断すれば、幹部からの牽制はたびたび行われよう。こうした牽制は、株価が上がりきってからでは遅すぎるので、ちょっとした楽観の「兆し」が見えれば、牽制球を小出しにして、ちょこちょことした楽観のガス抜きを続けるものと見込まれる。

具体的な牽制球としては、例えば11月13日に、クリストファー・ウォラー理事がオーストラリアのシドニーでの討論会で、前述のようなCPIの発表を受けた市場の楽観を戒めるため、「みんな、深呼吸をして、落ち着くべきだ、われわれはまだ(利上げを)進める道のりがあるのだから」と語った。

また、17日のアメリカ株式市場の寄り付き前には、セントルイス連銀のジェームズ・ブラード総裁が、ケンタッキー州ルイビルで開催されたイベント後の記者会見で、「十分に制約的な水準に到達するためには、政策金利をさらに引き上げる必要がある」と述べ、その制約的な水準として、5~7%という数値を挙げた(現在の政策金利は3.75~4.0%)。

こうした牽制は、今後もこまめに繰り出されよう。ただ、例えばブラード総裁の発言直後は、長期金利がやや上振れし、NYダウも前日比で下落幅を広げる局面があったものの、かつての「金利騒ぎ」の時期における市況波乱と比べれば、株式も債券も同日の引けにかけて、比較的落ち着いた反応だったと判断できる。さらに翌18日も、主要株価指数は上昇した。

こうした市場の動きからは、今後も連銀幹部の牽制がたびたび株価の上値は抑えようが、上昇トレンドを覆すほどのものとはなりにくい、と判断している。

さらにもう1つの「株価ひと休み」の要因としては、アメリカ経済の腰の強さが想定できる。例えば16日に小売売上高が発表され、総額の前月比は9月分のゼロから10月は1.3%増に大きく伸び、市場の事前予想の1.0%増を上回った。

もちろん、すべての財やサービスの消費が伸びているというわけではない。品目や価格帯によって動きはまちまちで、直近発表された小売業の決算についても、例えばターゲットは不振、メーシーズは好調など、明暗が分かれている。それでも、全体としての個人消費の力強さには目を見張るものがある。

株価にとっては、景気が強いことは本来なら上昇要因であるはずだ。しかし現時点では、利上げを続けても個人消費が折れ曲がらないという展開は、連銀が利上げ幅を縮めてもより長い間利上げを継続するという懸念を市場に与えかねない。これがアメリカの株価を一本調子で急伸させるのではなく、ひと休みと上値探りを交えながらの上昇という形にさせると予想される。

そろそろ「鬼を笑わせる時期」に差しかかった

「来年のことを言えば鬼が笑う」と言うが、今年もあと1カ月強を残すばかりとなった。来年の日米などの株価展望については時折当コラムで触れているものの、12月配信予定の分では詳細に主要市場の2023年の見通しを述べたいと思う。

実は筆者は、アメリカのワシントンDCとNYを取材出張のために訪れており、この原稿もニューヨークで執筆している。現地で種々貴重な情報を得たので、それを咀嚼して分析を深め、次回以降のコラムをお届けしたいと考えている。来年が鬼だけではなく、読者の皆様にとって、笑える年でありますように。

(当記事は会社四季報オンラインにも掲載しています)

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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