犯罪に走る人には、"悪の遺伝子"がある? 犯罪者と非犯罪者を分ける決定的要素

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たとえばセロトニンと呼ばれる神経伝達物質がある。ドーパミンが衝動やモチベーションを生み出すアクセルのようなものだと考えれば、逆にセロトニンは気分を安定させドーパミンの暴走を抑える役割がある。セロトニンレベルを下げるドリンクを飲んだ被験者は、ゲームで不公平な申し出を受けると報復行為を起こしやすくなる。じゃあ、体内のセロトニンレベルが平均と比べてずっと低いのであれば、そいつは間違いなく犯罪者になるのか? といえば、当然そんなこともない。

セロトニンレベルの低さは暴力犯罪を行った者が犯罪に至った一因であったかもしれないが、それだけが原因ではないのだ。その原因の根本的な切り分けこそが、難しいところだといえるだろう。本書はそのあたりについては、大量の実験例をもって実証を試みようとする。

いくつもの実験で徐々に見えてくる方向性

一つひとつは、うん? ちょっと待てよ、これは本当に調査として正しいのか? 相関関係と因果関係の区別を安易に混同していないか? あるいはサンプル数としてはこれで充分なのか? と考えこんでしまうものであっても、いくつもの実験を積み重ねていくことで確かな方向と「少なくともここまでは確かだ」という基盤が出来上がってくるのだ。

たとえば著者が41人の殺人犯を対象に行った脳領域の代謝活動の測定実験は、殺人犯と正常対象群とでは脳が機能的に異なることを明確に示している。文字が浮かぶ度にボタンを押すだけの単純な実験において、正常対照群は前頭前皮質、後頭皮質ともに活動が非常に活発だが、殺人犯の前頭前皮質はほとんど活動していない。『概して、四十一人の殺人犯は対照群と比べ、前頭前皮質の糖代謝量が非常に少ない。(p.108)』。

また、前頭前皮質に障害がある場合、衝動性の増大や自制能力の喪失といったさまざまな人格変化が起こることもわかっている。すべての殺人者に前頭前皮質の機能不全が見られるわけではないが、ひとつの傾向として存在していることは確かなのだろう。

アルコールやタバコが胎児に与える影響も

本書はこのようにして脳や家庭環境がどのように暴力性に関連するのかと幅広く見ていくが、それは何も「犯罪者を非犯罪者から区別しよう!」ということが目的ではない。たとえば妊娠中のアルコールやタバコの摂取が生まれてくる子どもの犯罪率に大きく関わってくることも(慎重に第三要因の統計的コントロールを行った上で)わかっている。こうした犯罪率を上昇させ得る初期の過程を特定することができれば、事前に対処することによって、後々の人生において暴力犯罪を減らすことが出来る。

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