ソウル雑踏事故で「女性の死亡者」が多かった理由 警察・消防は「密集混雑区域」と指定していた

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「事故発生地はとても狭く、さらに傾斜がある通りだった。ハロウィーンと週末が重なり、多くの人が集まって身動きができない状況であり不可抗力的な事故だった」とヨム教授は分析する。

警察・消防ともに事故が発生した地区を『密集混雑区域』として事前に指定していただけに、それなりの安全措置もとっていたのだろうが、想定を上回る数の人が押し寄せたのではないか。ただ、前日にも数千人が密集していたことを考えると、この時点で対応をより強化すべきだったかもしれない」(ヨム教授)。

(写真:HANG W. LEE/The New York Times)

ヨム教授はさらに「一般的には、事故発生現場がとても危険だと誰もが判断できる場所だったと思う。ただ、お祭り気分に酔い、そういった危険性は感じていたものの、わざわざ口に出したり行動に移すことができなかったのではないか。

今回の事態の原因が、飲酒や麻薬だったとは思えない。安全不感症という言葉を出さざるをえない状況だが、現場にいた人たちのせいというよりは、基本的にお祭りの場で訪れる人を統制できず、事前に安全対策や予防策を提示できなかったこと、これにより事故が発生した際に現場で対応できなかったことが最大の問題だ」と述べた。

事故が韓国の全国民的なトラウマに

SNS上では、ある男性が「心肺蘇生術ができる人は手を上げてください!」と叫ぶ映像が公開された。この男性の要請に市民数十人が名乗りを上げる。この男性は自分の手で心肺蘇生術を行うような行動をし、切羽詰まった声で「軍隊から戻ってきた人に心肺蘇生術ができる方がいらっしゃたらお願いします! 女性の中で看護師でいらっしゃる方は!」と叫んだ。その後、外国人が大声で英語で同じ内容を叫び、協力を求めた。

消防員や警察官だけでなく患者の友人と市民まで、意識を失った人の胸に心肺蘇生術を施して手足を揉みながら全力で息を吹き返そうとしていた。毛布や衣類で顔が覆われた人もいた。一部の市民は、友人や仲間と思われる人の手を握って泣いていた。顔が覆われて、すでに息を吹き返すことができずに止まったと思われる人の側から離れることができず、ただ手を握り続けたまま、もう片方の手で頭をなでている人もいた。

今回の事故は死傷者の家族はもちろん、国民全体にとってトラウマとなるのではないかと専門家はみている。2014年4月に発生、修学旅行中の高校生を含む死者299人を出した「セウォル号」沈没事件と同レベルの事故になるのではないか、ということだ。

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