無駄な仕事に大義名分を掲げる日本企業の病理 フルタイムで働かせるための仕事が創出される

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なお、やるべき仕事がなくなるというのは、大富豪になって引退し、何でも自分がやりたいことができるという意味ではありません。お金はそれほどない、でもやることがないので暇な時間はたくさんある、そんな状態です。

ぼく自身も、「これからずっと仕事をしてはいけない」と言われたらものすごいストレスを感じると思います。運よく没頭できる趣味が見つかればいいですが、そうでなければ相当に苦痛な日々が続くでしょう。

長年のあいだ、人にとって経済的な問題(食っていかなければいけないという問題)が主な、かつ切迫した問題だったとケインズは語っていました。そして経済的な問題が解決されてしまうと、「人類は誕生以来の目的を奪われることになろう」と書いています。

「今後もかなりの時代にわたって、人間の弱さはきわめて根強いので、何らかの仕事をしなければ満足できないだろう」(前掲書)

この主張は、ぼくは個人的に非常に納得感があります。何らかの仕事がないと、自分が生きている感じがしない。自分の生きている意味を感じられないというのは、とても理解できます。超お金持ちになって世界を遊んで飛び回れるのであれば話は別です。しかし、そこまでの経済的な余裕がない場合は「何もすることがない毎日」がくり返されるだけです。

文脈は違いますが、経済学の父と言われるアダム・スミスも同様の見方をしています。彼は、「お金があれば人は幸福になれるわけではなく、仕事が人に尊厳を与える」と語っていました。

生きていけるから仕事をしなくていいという状況だったとしても、仕事をしていなければ人としての尊厳を欠いてしまうかもしれない、ということです。

日本企業はフルタイムで働かせるために仕事をつくる

ケインズはこの状況に対して、「残された職をできる限り多くの人が分け合えるようにすべきである」と、ワークシェアリングのような逃げ道を提案しています。積極的な解決策ではなく、「そうでもしないとすぐ行き詰まってしまう」というようなニュアンスで述べています。

ぼくもこの案は賛成です。現代ではそんなにやるべき仕事はないので、フルタイムでみんなが働く必要はありません。ケインズが指摘した「週15時間で十分」が正しいとすると、ぼくらが現状している1日8時間労働は、およそ3人分の仕事をしていることになりますね。つまり、人口の3分の2は仕事をしなくていいはずです。

とはいえ、働かなくてもいいと言われても、何もしないのは暇すぎます。だから本当にやらなければいけない数少ないことを、みんなで分担するのはひとつのアイディアだと思います。

しかし現状はワークシェアリングどころか、反対にやるべきことが次から次にわいてきて、労働時間は依然として長いままです。

なぜそんなことになるのでしょうか?

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