一方で、「情報を疑いすぎて、もはや何が正解なのかわからなくなった」という状況もあります。その結果、購入の意思決定において、ブランドに対する「信頼」や「安心感」がプライオリティーの上位に上がってくるようになりました。情報的価値の信憑性が下がった結果、消費者は「情緒的価値」を重視するようになったのです。「情緒的価値」とは聞き慣れない言葉かもしれませんが、十分に人を動かす力を持っています。
それを強く感じたのは、着物販売の事業に関わっていたときの経験でした。着物は高価であるため、着物だけを見てすぐに購入してくれる人はごくわずかです。その、数百万円もする着物の購入に至る意思決定のメカニズムや変遷を目の当たりにしてきましたが、そこには「情緒的価値」が明らかに存在していました。
購買意欲を増進させる
着物に興味を持ってくれたお客様には、まずは柄、素材、歴史などの情報を説明します。しかしそれだけでは、購入の決定打にはなりません。多くのお客様が購入を決意するタイミング、それは「試着」です。実際に身につけ、手触りを感じ、鏡に映った自分の姿を見る。これにより気持ちが高まり、購入を決断するのです。情報ではなく情緒によって、背中を押されるのです。
これは着物に限った話ではありません。商品や広告を見たときの反応でも同じです。最初は購入意欲が低くても、写真や実物を見て気持ちが高まったり、作り手のメッセージやストーリーに共感を覚えたりすることで、購入意欲が増進します。この、目に見えないけど人を購入へと駆り立てる情緒的価値の正体こそ、「ブランド」です。
たとえそれが数百万円するものであろうとも、購入者は自らが「これは価値がある」と感じれば購入しますし、後悔することもありません。そのため、またお買い求めいただける「リピーター」にもなってくれます。逆にたとえ数百円のものであっても、強引にすすめられたら反発しますし、自分の内側から「価値がある」という感情が湧き上がらなければ、購入には至りません。
消費者のこういった変化も、企業が「ブランディング」と向き合わざるを得なくなった要因の1つといえるでしょう。
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