西郷隆盛、西南戦争参戦に「大久保利通が泣いた」訳 日本史上、最後の内戦はなぜ起こったのか

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大久保利通と西郷隆盛
大久保利通と西郷隆盛が激突した西南戦争が勃発するきっかけは何だったのでしょうか(左写真:photo123/PIXTA、右写真:w_stock/PIXTA)
倒幕を果たして明治新政府の成立に大きく貢献した、大久保利通。新政府では中心人物として一大改革に尽力し、日本近代化の礎を築いた。
しかし、その実績とは裏腹に、大久保はすこぶる不人気な人物でもある。「他人を支配する独裁者」「冷酷なリアリスト」「融通の利かない権力者」……。こんなイメージすら持たれているようだ。薩摩藩で幼少期をともにした同志の西郷隆盛が、死後も国民から英雄として慕われ続けたのとは対照的である。
大久保利通はどんな人物だったのか。実像を探る連載(毎週日曜日に配信予定)第52回は、大久保と西郷が激突した「西南戦争」勃発のきっかけに迫ります。
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<51回までのあらすじ>
薩摩藩の郷中教育によって政治家として活躍する素地を形作った大久保利通。21歳のときに父が島流しになり、貧苦にあえいだが、処分が解かれると、急逝した薩摩藩主・島津斉彬の弟、久光に取り入り、重用されるようになる。
久光が朝廷の信用を得ることに成功すると、大久保は朝廷と手を組んで江戸幕府に改革を迫ったが、その前に立ちはだかった徳川慶喜の態度をきっかけに、倒幕の決意を固めていく。
薩長同盟を結ぶなど、武力による倒幕の準備を着々と進める大久保とその盟友の西郷隆盛に対し、慶喜は起死回生の一策「大政奉還」に打って出たが、トップリーダーとしての限界も露呈。意に反して薩摩藩と対峙することになり、戊辰戦争へと発展した。
その後、西郷は江戸城無血開城を実現。大久保は明治新政府の基礎固めに奔走し、版籍奉還、廃藩置県などの改革を断行した。そして大久保は「岩倉使節団」の一員として、人生初の欧米視察に出かけ、その豊かさに衝撃を受けて帰国する。
ところが、大久保が留守の間、政府は大きく変わっていた。帰国した大久保と西郷は朝鮮への使節派遣をめぐって対立し、西郷が下野。同じく下野した江藤新平は「佐賀の乱」の首謀者となった。大久保は現地に赴き、佐賀の乱を鎮圧する。大久保は「台湾出兵」でも粘り強い交渉の末、清から賠償金を得て、琉球も併合。そして「地租改正」などのさらなる大改革に乗り出していく。

実は鹿児島の士族を優遇していた大久保利通

日本史上、最後の内戦――それが、1877(明治10)年に勃発した西南戦争である。不平士族たちを率いた総大将は、西郷隆盛だ。

「明治六年の政変」によって西郷が鹿児島に帰郷して実に4年目の出来事となる。下野した西郷は「農業」と「教育」に注力。自ら畑仕事をしながら、陸軍将校たちと鹿児島に私学校を設立した。その私学校の生徒ら二十数名が、鹿児島の草牟田にある陸軍の火薬庫を襲撃。銃砲と弾薬を奪ったことが、西南戦争のきっかけとなった。

1874(明治7)年の「佐賀の乱」を始めに、1876(明治9)年の熊本県士族による「神風連の乱」、ついで同年、山口県士族による「萩の乱」と、士族の反乱が立て続けに起きている。

そして鹿児島県士族による「西南戦争」と、士族たちが次々に反旗を翻したのは、明治政府への不満が高まっていたからにほかならない。とりわけ、士族の神経を逆なでしたのが、士族の家禄を廃止したことと、廃刀令の実施である。

いずれも大久保が士族の特権に大ナタをふるった結果だったが、実のところ、鹿児島県だけが優遇されていた。

家禄制度(主君が家臣に与える俸禄)を廃止する代わりに、旧士族に政府は公債を発行。いわば「手切れ金」のようなものだが、公債化した家禄の利息が他府県では5~8%とされていたが、旧鹿児島県士族だけには、それ以上の利息が支給されていたのである。

自分と関係の深い者たちだけ優遇するなど、トップリーダーとしてあってはならない。そんなことは大久保が一番よくわかっていたはずだが、そうせざるをえないほど、鹿児島士族には気を遣っていたのである。

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