個人の「遺伝子情報」がわかる時代に起きること 遺伝的な疾病の要因がわかるが、差別要因にも
日本はまだ黎明期ですが、アメリカを中心に体質の特徴やあらゆる疾患への罹患リスクなど、遺伝子検査・解析サービスが急拡大しています。
個人の遺伝子情報を把握し、身体の状態に合わせて食事や日々の運動、過ごし方など、新たな介入を提案し続けることにより、ライフケア、ヘルスケア、シックケアまでをカバーする総合的なサービスが重要になってきます。
「遺伝子差別」を防ぐ法整備が必要に
一方、遺伝子データそのものをどう扱うかも課題となっています。
体質の特徴やあらゆる疾患への罹患リスクなどの可能性がわかる遺伝子情報は、極めて機微な個人情報です。今後、遺伝子が要因となった差別につながる可能性もあります。そうした事態に陥らないよう、遺伝子のような機微な情報の取り扱いについては、グローバルな制度を整えておくことが不可欠です。出産や生命保険への加入など、遺伝子情報により新たな差別を生み出しかねません。
実際、アメリカでは雇用における遺伝子差別が社会問題となり、2008年に「遺伝子情報差別禁止法」が制定されました。EUでは、2000年に起案された欧州連合基本権憲章第21条において、遺伝的特徴に基づく差別を禁止しています。
数年前からすでにサービス提供が開始されている個人のゲノム解析サービスは、これまで予防が難しかった疾患について、個人での対策を講じることができるものです。まだ、個人情報保護や倫理的な課題などが残っていますが、すばらしいバイオテクノロジーを健康維持促進に対して有効にできるようにすることができれば、国の医療費負担の削減にもつながります。
また、これまで変えることができなかった“運命”を人為的に変えられるようになると、身長や肌の色、運動能力、知能面など、人間の多様性が損なわれる可能性も出てきます。ある種の遺伝子を排除して多様性が狭まったとき、今後新しい疾病やウイルスに直面した際にヒトの生存率が下がる可能性もあります。人間があらゆる生命を操ることができることのリスクは、計り知れないものがあります。
世界的な社会課題の解決に向けて有効に活用されるのか、それとも、使い方を誤り人類にとって最悪の事態を招いてしまうのか。バイオテクノロジーの進化だけが先行することのないよう、国際的なルールづくりをいっそう加速することが必要です。
世界で大きなうねりになっているバイオテクノロジー。新時代のバイオテクノロジーは研究開発体制にも変化をもたらしています。
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