ヤマト運輸、「すごいサービス」はなぜできる? 「まごころ宅急便」を生んだ現場力とは

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 高齢化社会での「買い物難民」と「孤独死」。2つの大きな社会問題を減らすための、民間ベースの解決策でもあります。それは高齢者の孤独死と接点を持つ現場のスタッフによる「VOG」から生まれたものなのです。

もうひとつ、「VOG」から生まれたのが「家電の修理サービス」です。

お客さまの不便を解消する「家電修理サービス」

ヤマト運輸は、家電品の修理を行うためのセンターを自前で設立し、故障品の回収から配送まで最短3日という「家電修理サービス」を行っています。

これも修理品を届けた配送員が、「家電品の修理にかかる日数が長すぎる」と感じた「気づき」が発端です。パソコンやテレビが故障し、1週間以上も使えなければ不便だという「VOG」がサービスの起点なのです。

先の「まごころ宅急便」と同じく、この根底にあるのは同社の「サービスが先、利益は後」という会社としての理念です。

「現場の配送員一人ひとりが、どうずればサービスをよりよくできるのかをつねに考えて、まずは実践すること。それで顧客満足を生み出すことができれば、その結果として利益はついてくる」という考え方が、ヤマト運輸の根底にあります。

現場の「感度」が高く、卓越した「現場センサー」を磨いているからこそ、「まごころ宅急便」や「家電修理サービス」といった新たな商品が生まれるのです。

「現場」起点で着想する需要創造力

ヤマト運輸の「現場」へのリスペクトを示すものに、約30年間、毎週行われている「経営戦略会議」があります。社長から一般社員まで参加し、新たなサービスについて、「現場のアイデア」を聴くのが目的です。

こんな取り組みを毎週やっている企業を、私はほかには知りません。実際に、この会議から電子マネー決済などの新規サービスも生まれています。同社にかかれば、会議さえもひとつの「現場」にしてしまう好例で、「VOG」の原点とも言えます。 

現場に権限委譲して実践する同社の「全員経営」の考え方については、『現場論』でより詳しく解説しています。お読みいただければ、「現場」起点で「新しいものを生み出す」企業文化がよくわかるはずです。

ヤマト運輸の「需要創造力」の仕組みを見てくると、業態の違いを超えて、「現場」で着想して企画することの重要性を痛感させられます。

通常業務の中で「見える化」しにくい「VOG」に注意を払い、現場のアンテナの感度を高め、一人ひとりが「需要創造力」を身に付けるべき時代が来ているからです。

遠藤 功 シナ・コーポレーション代表取締役

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えんどう いさお / Isao Endo

早稲田大学商学部卒業。米国ボストンカレッジ経営学修士(MBA)。三菱電機、複数の外資系戦略コンサルティング会社を経て現職。2005年から2016年まで早稲田大学ビジネススクール教授を務めた。

2020年6月末にローランド・ベルガー日本法人会長を退任。7月より「無所属」の独立コンサルタントとして活動。多くの企業のアドバイザー、経営顧問を務め、次世代リーダー育成の企業研修にも携わっている。良品計画やSOMPOホールディングス等の社外取締役を務める。

『現場力を鍛える』『見える化』『現場論』『生きている会社、死んでいる会社』『戦略コンサルタント 仕事の本質と全技法』(以上、東洋経済新報社)などべストセラー著書多数。

 

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