「安倍氏国葬」反対派が騒いでも政府が黙殺する訳 派閥の力学という不安定要素を抱え込んだからこそ

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参院選後の国政選挙がスケジュールされない期間を岸田政権が多くの政策を自由に実行しうる「黄金の3年間」などと呼ぶ向きもあったが、実際には統一地方選挙などを通じて、岸田政権はとくに選挙に強かった安倍政権と常に比較され評価されることになる。このように葬儀という本来であれば私的で厳粛に執り行われるべき儀式ですら、国家が関与する時点で、否応なしに内外で生々しい政治性を帯びるのは不可避だ。

国葬(儀)批判派の現状はどうか。共産、社民、れいわは国葬(儀)への欠席を表明し、立憲民主党の泉代表は本稿執筆時点では出欠の態度を明確にしていない。政府に質問を提出し、回答が納得いくものでない場合には欠席するということのようだ。共産党は志位委員長が「憲法違反」の国葬中止を求める声明を出し、全国で国葬中止を求めるデモなども起きている。

当初、実施に寛容かに思えた世論もNHKの8月8日世論調査では「評価しない」が半数をしめ、本稿執筆時点の報道各社の世論調査では否定的な評価が半数超となるものが大半となっている。また知事や地方議会議長の国葬参加における公金支出中止を求める住民監査請求が北海道、京都、大阪、兵庫の各道府県で実施されている。

前述のように唐突な国葬(儀)に対する批判意識は歴史的に見ても至極当然で最終的には司法の判断に委ねられるものと思われるが、実務的にはすでに世界各国に通知がなされ、各国出席者が決まるなかでの中止はかなり難しく映る。なにより今月27日開催というスケジュールで今時点からの中止を決めれば世界では相当な違和を持って受け止められることになるだろうし、国内にもまったく示しがつかないことから、政府は万難を排しての実施にいっそう傾注するものと考えられる。

国内外から6000人規模の要人が東京に参集するというから、警備と運営も五輪級のものとなるはずだ。吉田茂の国葬(儀)に際して実施された国民への自粛要望はなされないという。

綱引きに勝つのは岸田政権か野党サイドか

法的にはさておき、道義的に今回の岸田政権の国葬(儀)実施が受け入れがたいということであれば、もっとも重要なことは政治参加の代表的機会である国政選挙をはじめ、諸選挙の際の判断材料として有権者に忘れさせず、争点化しながら、同時に野党サイドの政権担当能力とその説得力を高めていくことだろう。

長期化した安倍政権を思い返してみても、野党陣営はそれらにたびたび失敗してきた。度重なる公文書と統計改ざんなど多くの「言語道断」の主題があったはずだ。筆者は必ずしも同意しないが、野党の主張では平和安全法制なども該当するだろう。そうであるにもかかわらず、現在に至るまで自公連立の長期政権が良くも悪くも変わらないまま存在している。「言語道断」さが自明ではないと有権者が認識してしまっているなら、説得力を持って伝えていかなければならない。「言語道断でも野党に投票する気はしない」と受け取られてしまうようなら、健全な政治的緊張が機能しまい。現在の日本政治はそうなっていないだろうか。

国葬(儀)が現状、内閣の裁量で実施される儀式に位置づけられ、政治的なイベントである以上、過程も含めた評価は当然その内閣の業績評価に結びつかざるをえない。その綱引きに勝つのは岸田政権か、野党サイドか、それとも漁夫の利を得るものがいるのか、9月27日の国葬(儀)は改めて重要な政治イベントとして注目に値する。(文中敬称略)

西田 亮介 社会学者

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にしだ りょうすけ / Ryosuke Nishida

立命館大学大学院先端総合学術研究科特別招聘准教授(有期)。
1983年京都生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。同助教(有期・研究奨励II)、(独)中小機構経営支援情報センターリサーチャー、東洋大学・学習院大学・デジタルハリウッド大学大学院非常勤講師等を経て現職。

専門は情報社会論と公共政策学。情報と政治、ソーシャルビジネス、協働推進、地域産業振興等を主な研究テーマとする。現場とデータ双方の丹念な調査・分析に取り組み、得られた知見を以て現実に寄り添った問題提起を行う。ネット選挙解禁に際しては、当該領域における専門家として注目を浴び、新聞・雑誌へのコメントや寄稿、テレビ・ラジオへの出演と各メディアを通じて、広く一般に語りかけ続けている。

著書に『ネット選挙 解禁がもたらす日本社会の変容』(小社刊)、共編著に『「統治」を創造する』(春秋社)、共著分担執筆に『大震災後の社会学』(講談社)、『グローバリゼーションと都市変容』(世界思想社)他。

⇒【WEBサイト】、【ブログ】、【twitter

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