イージス・システム搭載艦が自衛隊を弱らせる訳 建造強行なら防衛費を浪費させ人的負担も増える

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「イージス・システム搭載艦」の調達単価は通常のイージス艦の2倍の4000億円程度になるという声もあるが、上記のような建造以外のコストを含めればもっと高いだろう。それに通常のイージス艦よりも維持費がかかり、ライフ・サイクル・コストはイージス艦の2倍では到底収まるまい。そして教育体系や兵站も異なるので海自の人的負担は大きくなる。

イージス・アショアの売り込みはアメリカミサイル防衛庁が中心で彼らはSPY-7を押してきた。アメリカ海軍とも密に話を進めれば、SPY-6の採用もあり得ただろう。そうであれば無理やりSPY-7を搭載した「イージス・システム搭載艦」をでっち上げる必要も無かった。これは防衛省内局の調整力の欠如ではないか。

財務省筋によればFMS(アメリカ有償援助)で調達されるSPY-7に関しては、キャンセル条項がない可能性がある。このため仮にSPY-7をキャンセルした場合、全額を支払う必要がありえる、という。それでもSPY-7をキャンセルしたほうが国防上、有利であろう。

護衛艦隊が必要ならむしろ負担は増える

浜田大臣は「イージス・システム搭載艦」の導入によって既存のイージス艦をミサイル防衛任務から解放できるというが、新たに「イージス・システム搭載艦」の護衛艦隊が必要ならばむしろ負担は増える。

「イージス・システム搭載艦」でもイージス艦でもミサイル防衛の大きな「空白」が法的に存在する。

現在の電波法ではイージス艦は沖合50海里まで離れないとイージス・レーダーを使用することができない。この情報は、以前は公開されていたが、今は非公開となっている。アショア導入ではこの点を無視していた。沖合50海里離れないと使えないレーダーを内陸に設置できるのか。そのことはアショア配備予定の自治体にも説明は無かった。 

そして「イージス・システム搭載艦」にしろ、イージス艦にしろ、停泊中、あるいは陸から50海里以内にいる場合、弾道ミサイルの奇襲を受けても迎撃できない。例外は防衛出動が明示された後だが、防衛出動発令はハードルが高いうえに、相当時間がかかる。奇襲には間に合わない。

その場合は電波法を無視して迎撃するか。法を尊重して海自は迎撃を諦めて、弾道弾が着弾するのを見ているしかない。このような現状を放置しているのは政治の怠慢としか言いようがない。

かつて小泉政権時代の有事法成立によって、自衛隊を縛る多くの規制が緩和された。例えば野戦病院は実際に使うと病院法違反で「もぐりの病院」となるので使用できなかった。法的に実戦で使えない装備であれば、実戦を想定した運用は不可能だ。これ以降、歴代政権では自衛隊を縛る規制緩和は遅々として進んでいない。

昨今、単に防衛費を増やせば防衛力を増強できるという意見が強くなっているがそれは幻想だ。それよりも政治と、防衛省や自衛隊の当事者能力を高めて予算を効率的に使える能力を高める必要がある。国債を発行して無理な軍拡を行っても尻すぼみになる。戦争が起きれば多額の国債を発行して戦費を調達する必要がでてくるが、平時から無理な軍拡をしていればその余裕はなくなる。

わが国は少子高齢化が進み国内市場は縮小するGDPは良くて横ばいだろう。その環境でGDPの2倍以上という太平洋戦争当時並みの国家の赤字を返済していかないといけない。当然ながら少子高齢化は自衛官のリソースも減るわけで、隊員の確保も難しくなる。とても無理な軍拡ができる環境にない。

安倍政権の無謬を強弁するために軍事的整合性に欠け、費用と人的負担の多い「イージス・システム搭載艦」の採用は中止すべきだと筆者は考えている。

清谷 信一 軍事ジャーナリスト

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きよたに しんいち / Shinichi Kiyotani

1962年生まれ、東海大学工学部卒。ジャーナリスト、作家。2003年から2008年まで英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』日本特派員を務める。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関Kanwa Information Center上級アドバイザー、日本ペンクラブ会員。東京防衛航空宇宙時評(Tokyo Defence & Aerospace Review)発行人。『防衛破綻ー「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『専守防衛-日本を支配する幻想』(以上、単著)、『軍事を知らずして平和を語るな』(石破茂氏との共著)など、著書多数。

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