稲盛和夫さんの『生き方』が強烈に支持された訳 日中で累計730万部の著書はどう広がっていったか

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稲盛さんとは、節目節目でお会いしたり、会食したりしました。稲盛さんは怖いイメージがありますが、直接知る人は誰もが、自然体でざっくばらんな方だと言います。

本ができあがったとき、私と担当編集の2人は京都の料亭にお招きいただきました。当然、私はかたくなっているわけですが、こう聞かれました。「植木さんは、お酒を飲まれる方ですか」。

私が、「嫌いではないです」と申し上げると、稲盛さんは私の肩を抱き、「そうか、良かった」と微笑まれると、私のグラスにお酒を注いでくださったのでした。日本を代表する世界的経営者です。驚きました。これぞ、男が男に惚れるということだと思いました。なんとも言えない温かさ、魅力を感じました。

深い所から長期的な視点で人の生き方を見ている

どうして『生き方』がこれほど支持されたのか。稲盛さんという人の言葉の力の強さを挙げる人も多いかもしれませんが、私はそれだけではないと思っています。

稲盛さんはエリートでもなかったし、トントン拍子の人生を歩んだわけでもなかった。中学受験に失敗し、結核を患い、大学受験にも失敗。やっと就職できたと思ったら、今にもつぶれそうな会社だった。つらい思いをしてきたし、報われないこともたくさんあった。それでも、めげずに努力をし続けた。

だから、苦しんでいる人、悩んでいる人、恵まれない人が他人事にはならないのです。実際には、そういう人のほうが世の中には多い。そこに、穏やかで慈悲深い目線でメッセージを発信していくのが、稲盛さんだったのです。

正論を振りかざして何かを語るのではなく、深いところから長期的な視点で人の生き方を見ている。だから、心に響くのです。

本が刊行された翌年の2005年、私は稲盛哲学を学び直したいと盛和塾に入塾しました。2016年、稲盛さんから教わったことを発表してほしいと言われ、1時間ほど講演したことがあります。そこで私が語ったのが、3つの教えでした。

言葉だけではない、身体全体からのメッセージ。

ほとばしる信念、情熱の激しさ。

人に惚れさせる目線の低さ。

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