稲盛和夫さんの『生き方』が強烈に支持された訳 日中で累計730万部の著書はどう広がっていったか
稲盛さんの本は、出せばもちろん5万部、10万部が売れるでしょう。しかし、私たちが考えていたのは、決定的な1冊を出したい、ということでした。目指したのは、精神性の高さと同時に人生の指針になるような自己啓発書、人生の書でした。より幅広い読者に向けるけれど、深い1冊。こうした考えを稲盛さんも受け止めてくださいました。そして1年がかりで本づくりを進めました。
このとき驚いたのが、稲盛さんの原稿へのこだわりです。途中で新たな資料を次々に出してもらったり、まだ書籍で使われていないエピソードを組み込んでほしいと言われたりと、とにかく徹底的にチェックされました。強い思い入れを持っていただいているのを感じました。
稲盛さんはいつも本づくりの最後に、秘書がゲラ刷りを読み上げてチェックする「読み合わせ」をされます。『生き方』のときも当然、読み合わせがありました。静かに目を閉じて聞いておられた稲盛さんは、ゲラ刷りの最後の1行が終わった瞬間、大きな声でこうおっしゃったのだそうです。
「すばらしい、この本には私の言いたかったことがすべて表現されている!」
そして、秘書の方と熱い握手を交わされた、とお聞きしています。
部数が伸び女性や若い世代にも広がっていった
稲盛さんは仏門に入られていたことでも知られていましたが、心を磨くことを人生の大きな目的にされていました。そこに地続きの本だというイメージもお持ちくださったのだと思います。ご自身で、この『生き方』を広めたいと動いてくださいました。
盛和塾でも「ぜひ読んでほしい」と塾生におっしゃっていましたし、いろいろな場で告知をしてくださいました。滋賀県のスーパー平和堂の社長からは、社員とパート全員に配りたいから1万冊を買いたい、という申し出がありました。これには驚きました。
刊行からしばらくは、経営者や幹部クラスの方の反響が大きかったのですが、部数が伸びていくに従い、女性の占める割合が増えていきました。女性読者はクチコミ効果も大きく、ベストセラーになる大きな要素の1つです。そして、年齢も高いところから、だんだんと低いところへと移っていきました。
サンマーク出版には、読者からたくさんの感想を記したハガキが届きました。例えば、68歳の主婦の方から。「1ページ目から驚きの本でした。もう一度、中学生に戻って新しい人生を生きてみたいと切に思いました。それはかなわぬことなので、孫18歳、16歳、1歳に送ってやりました」。お孫さんに生きる指針にしてほしかったということなのでしょう。
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