ピーター・ティールが見た日本企業の優位性 楽天・三木谷社長と起業論で激突

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一方、これまで"買う側"に徹している三木谷社長は「今では(米国の)ほとんどの起業家が目指しているのは株式公開でなく、企業の売却だ。そして、買収されることを祝うわけだが、それは賢い選択だと思う」とコメント。一方、「日本の起業家はちょっと頑固なのでは。小さな時価総額でも株式公開しようとする」。

ティール氏「ニッチ領域にこそチャンスある」

2人のトークはその後、起業家の在り方や、持つべき起業家精神にも及んだ。

ティール氏は革新的なテクノロジーやビジネスモデルを言い表す際に、肯定的な意味合いで「ディスラプティブ(Disruptive=破壊的な)」と表現する風潮に疑問を感じるとし、「古くからある会社を破壊しようと思うのではなく、価値のある会社を作ろうと考えるべきだ」と持論を展開。「世界規模の企業になると、構造的に小さい規模から始まるビジネスに関心を持たなくなる。だからこそ、ニッチな領域にチャンスがあるのではないか。大きな市場には当然ライバルもたくさんいる。そこで戦ってもしょうがない」と語った。

三木谷社長も「楽天も(楽天市場に出店する)ローカルな企業に価値を提供している。既存のビジネスを奪おうとしているのではない」と応じ、「アマゾンは既存の小売店と競争し、消費者と小売業との間の人的な要素を排除しようとしている」とライバル企業を批判した。

「日本が素晴らしく上手いのは、複雑なコーディネーションの領域で、いろいろなモノの整合性をぴったりと合わせることができる。イノベーションでも複数の(要素の)連携、連動が得意だと思うので、そうした領域を追求していくべきだ」。パネルディスカッションの終盤、ティール氏は日本企業、そして日本の起業家に向けて鋭いメッセージを発した。

かつて製造業を中心に、日本企業の成長力の源泉となったとされる高度な"すり合わせ能力"。だが、今では世界的に部品やモジュールの標準化が進む中で、低コスト化への軌道転換が遅れる原因になったと、「ガラパゴス化」のやり玉にあげられることも多い。

だが、ティール氏は高度な組み合わせや調整の妙こそが、日本の企業、起業家にとって可能性の大きい領域だと評価した。ネットによって多くの業界の秩序が変わる中、ティール氏が評価する日本流すりあわせ技術は再び世界で輝くことができるだろうか。

山田 泰弘 東洋経済 記者

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やまだ やすひろ / Yasuhiro Yamada

新聞社の支局と経済、文化、社会部勤務を経て、2014年に東洋経済新報社入社。IT・Web関連業界を担当後、2016年10月に東洋経済オンライン編集部、2017年10月から会社四季報オンライン編集部。デジタル時代におけるメディアの変容と今後のあり方に関心がある。アメリカ文学、ブラジル音楽などを愛好

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