稲盛氏を中国の超大物企業家が尊敬する深い理由 ファーウェイ、アリババ、バイトダンス創業者も

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王育琨氏も任CEOの指摘を受け、「経営哲学は企業を存続させる商品を生み出さないと、空虚な精神論になってしまう」と理解を示した。

ファーウェイは通信機器やスマートフォンのメーカーであり、京セラ、KDDIの事業と親和性が高い。任CEOにとっては、フィロソフィー以外にも学ぶことが多かったのだろう。

中国最大のECサイトを展開するアリババグループの創業者・ジャック・マー氏は、2014年に稲盛氏と2度目の対面を果たした。アメリカでの上場で史上最高額の資金を調達したアリババ帝国のトップとして、マー氏が世界中の注目を浴びていた頃だ。

マー氏は稲盛氏に、「前回お会いしたとき、あなたが出家して修行したとお聞きして、妻に『自分も60歳になったら出家したい』と相談したんですよ。でもだめだと言われました」と切り出した。

マー氏は妻に反対され、「(出家しなくても)私たちは毎日が修行ですから。仕事はもちろん、すべての困難も楽しみも修行の一環です」と自分を納得させたという。

マー氏は中国にインターネット革命を起こしたIT起業家だが、普段の言動は哲学者や思想家に近く、若い頃から続けている太極拳の「自ら攻めず、わずかな力で大きなものを動かす」考えをビジネスのヒントにしている。仏教や陽明学などを取り入れながら経営哲学を説く稲盛氏とは、通じ合う面が多々あったようだ。

「術」より「道」を説く稲盛氏に共感

稲盛フィロソフィーが中国でブームになったのは2010年代前半。同氏の著書『生き方』(中国語名:活法)は複数の翻訳本が出され、合計すると500万部を超えるベストセラーになっているという 。

ブームの背景には、中国で2ケタ成長が止まり、経済が踊り場に立っていたことがある。

中国ではそれまで戦略や戦術を説くアメリカの経営学が流行していた。だが、2008年の金融危機で「利益のみを追求する」考え方が限界に達したとき、中国人経営者の心を救ったのが「論語」「陽明学」の思想をビジネスに落とし込んで、「道」を説く稲盛氏の経営哲学だった。

中国人経営者が稲盛フィロソフィーをどう理解しているかを研究し、論文にまとめた北京大学国家発展研究院の楊壮教授は、「2000年代は金を稼ぐこと、金持ちになることが追求すべきテーマだったので、稲盛さんの考え方はそんなに広がらなかった」と分析した。

金融危機や格差拡大を契機に、経営者は「経営者のあるべき姿」を考え始め、稲盛氏に解を求めるようになったという。

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