たとえばメディアでは、不利な条件を乗り越えて大成功したCEOのサクセスストーリーがよく取り上げられる。しかし、そうしてストーリーをつぶさに見てみると、こうしたCEOはリスクを見積もり、それに備える計画を周到に練っていたとわかることが少なくない。
マイケル・マスターソンは『臆病者のための科学的起業法――起業の超プロが実践する絶対に失敗しないための10の技術』(ダイレクト出版)の中で、マイクロソフトを始めるためにビル・ゲイツが大きなリスクをとって大学を中退したことが、たびたび取り上げられる点に触れている。
能力があればリスクはチャンスにできる
しかし、マスターソンはこうした見方を批判し、きわめて実務的なゲイツ像を描いている。几帳面で優秀な若者だったゲイツは、新規事業がうまくいかなかったら大学に戻ることをいつも考えていたという。
もしゲイツがそれほど賢明でなく、裕福な両親から支援してもらった多額の資金もなかったとしたら、ハーバード大学を中退する決断はリスクが高かったので、メディアが取り上げるべき価値がもっとあったかもしれない。
要するに、あらゆるリスクは危険なものではなく、起業家はこのことを心得ている。つまり実際のところ、起業家になるとは、失敗する可能性やリスクの高さの話ではなく、そうした確率を乗り越える能力の問題が大きい。皮肉なことに、世界中がこの教訓をリーマンショックなどの世界的な景気後退(グレート・リセッション)から学んだ。
また、この法則の反対もあてはまる。つまり、人々が安全だと思っていたことは、思っていたほど安全ではない。大学を卒業したからといって、勉強した分野で高給が得られる職業に就けるとはかぎらない。会社に勤めていても解雇されないという保証はない。
会社の企業年金制度に加入したからといって、加入したときより銀行の残高が増えるかはわからない。世界中で景気後退が継続するなら、起業家として夢を追うほうが就職するよりリスクが低いだろう。
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