特急「サフィール踊り子」コロナ禍でも人気の秘密 「乗って楽しい」とは一味違う伊豆への交通手段

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サフィールは、こうして昭和型観光からの脱却を目指す伊豆へ、利用層を明確に絞ることで棲み分けを狙って誕生した。しかし、そのデビューはコロナ禍となり、観光で成り立つ伊豆も「踊り子」も、長きにわたり大打撃を受けている。ところがサフィールだけは、ほんの一時を除いて客が途切れず、よく利用されている。カフェサービスは休止されたものの、定期1往復、臨時1往復のいずれもコロナを理由に運休したことはない。しかも聞くところ、とくに個室が埋まっているそうだ。

プレミアムグリーン車内(写真:レイルマンフォトオフィス)
大人気の個室(写真:久保田 敦)

つまり、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が発出される中で、ワーケーションといった新しいスタイルも言われるようになり、密な都会を離れるニーズが生まれた。伊豆にはその環境が整っている。それには東京の自宅や勤務先との往来も生じるが、車は感染対策では安心でも渋滞もある中で頻繁にハンドルを握っての往来は負担である。サフィールが顧客と狙った層においては、リビングのような個室は1人で仕事をするにも、家族で移動するにも好適な空間であり、グリーン車の一般席でもゆったり距離を保てる点は、移動手段として絶好のものだった。

さらにその安心感は、移動は許されたが談笑することには規制や自制が働く現下、意外とも言えるほどに幅広い層の家族やグループにも選択されるようになった。「踊り子」の普通車指定席で東京〜伊豆急下田間は6060円。それに対する「サフィール踊り子」は9810円で、上級のプレミアムグリーンで1万2130円である。グリーン個室料金は4人個室が1万1200円、6人個室が1万6800円だが、乗車券は乗車人数のみでよく1人での利用も可能、定員いっぱいで利用すれば一般のグリーンと同額となる。したがって差額は1人4000円弱から6000円程度。安心とともに、ちょっぴり奢った食事と同感覚なのか、プチ贅沢として選ばれる。お金の使いどころに聡い若い人の利用も少なくないようだ。

伊豆の新たな魅力 それに応えるサフィール

ひとくくりに「観光列車」と言われるところであるが、じつは大きく2種類に分かれることに気付くだろうか。1つは旅行における現地のアトラクション的な列車。そしてもう1つは現地に行くための手段となる列車である。

『鉄道ジャーナル』2022年10月号(8月20日発売)。特集は「観光輸送の視点」(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

前者については、JR東日本は「のってたのしい列車」と称している。それが比較的東北地方に多いのは、万人に知られ、誰もが訪れる観光地が少ないためで、現地の列車が楽しい目的となるよう作り込み、新幹線を往復の交通手段として訪れてもらう戦略である。それに対して後者は、目的地への期待や高揚感を現地に行く前、スタート地点から過程として味わえるように充実させた列車だ。「サフィール」はまさしく後者であり、したがってJR東日本は「のってたのしい列車」には含めていない。その発想は全国を見回しても多くはない。先達に挙げるとすれば、JR九州の「ゆふいんの森」あたりであろうか。

ただ、いずれにも重要とされるのは、鉄道の車両だけが新しいものや突出したものになっても、魅力ある目的地がなければ人は呼び続けられない。現地がおもてなしの心で歓迎し、盛り立ててくれなければ成り立たない。逆に、そういう目的地の受け入れ態勢があればこそ、それに似合った車両が必要であり、そうでなければ鉄道自体が旅行の中に組み込まれないという関係にある。

万人に知られ、数多の媒体で紹介され尽くした伊豆は、新しくどう楽しんでもらえるかを課題とし、地元は模索し続けている。その取り組みに対し、鉄道側として新たな移動手段となるよう生み出したのが「サフィール」である。

鉄道ジャーナル編集部

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車両を中心とする伝統的な鉄道趣味の分野を基本にしながら、鉄道のシステム、輸送の実態、その将来像まで、幅広く目を向ける総合的な鉄道情報誌。創刊は1967年。

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