特急「サフィール踊り子」コロナ禍でも人気の秘密 「乗って楽しい」とは一味違う伊豆への交通手段

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伊豆の観光にとっての「踊り子」の価値が再認識されて地元とJRの距離が接近し、2012年12月からは一部臨時列車に登場から年月の浅い「成田エクスプレス」用のE259系が投入された。その頃から新車の話も現実味を帯びる。折からリニューアルからも10年以上を経たスーパービューの老朽化という問題があった。だが、すぐには実現しない。

小田原ー伊豆急下田間に運転された「伊豆クレイル」  (写真:杉山 慧)

そこで新たなスタイルとして考えられたのが651系改造の「伊豆クレイル」で、2016年7月から土休日中心に小田原―伊豆急下田間1往復の臨時快速列車として登場した。これは4両編成中でラウンジ車を除けばグリーン車という姿で、サフィールにつながるトライアルと言えた。伊豆の食材を使った料理を車内で提供する姿は、地元とJRが手を携えた証拠でもある。「伊豆クレイル」は、サフィールが登場する2020年3月まで運転された。

一方、このころJRと県や観光関係者が一体となって展開されるデスティネーションキャンペーン(DC)の効果も広く認識されるようになり、伊豆も他県での様子を見聞していた。そこで2019年1〜3月に静岡DCが実施された。これを契機として、地元とJRの関係はより密になる。そしてこのDCのアフターキャンペーンを締め括り、後を託す形で誕生したのがサフィールであった。

フラッグシップとしてより先鋭的に

「上質・高級で優雅な旅を楽しむ」というコンセプトは、2016年に「伊豆クレイル」を生み出した時点で、おおむね固まっていた。万人を受け入れる伊豆は客層が厚く、別荘や高級旅館を志向する人々も多い。一般的に利用される列車への新車導入は判断が難しいが、ハイクラスの人々を狙いに定めれば、単価を引き上げることにより採算を成り立たせることができる。また、1つの列車であらゆる層に対応しようとしても、結果的にすべてを充足させられないことはスーパービューにおける結論だった。それまでのスーパービューに託していた役割をより先鋭的に切り出し、フラッグシップとして実現させることになった。

地域側もまた、温泉と花だけではない新たな観光を作り出そうと努めた結果、伊豆半島の自然の中には火山活動や地殻変動によって作られた不思議な絶景が多い点を掘り起こした。2018年に伊豆半島は「ユネスコ世界ジオパーク」に認定されている。その意義をお仕着せの観光施設では満足し得ない本格志向の大人の客層に共鳴させるため、さまざまな体験メニューを用意した。

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