世界が感嘆「三宅一生」未来を見たデザインの凄さ 黒のタートルネックはスティーブ・ジョブズも愛用

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そして2010年に登場したのが、「BAO BAO ISSEY MIYAKE(バオバオ イッセイ ミヤケ)」。小さな三角形のパーツが連なった平面体のバッグが、ものを入れると立体的な美しさを形作る。

強い独自性を持ちながら、身に着けている服に違和感なく溶け込む。オリジナリティのあるデザインであり、軽く使い勝手がいいことから、行列ができるほどの人気を集め、国内外、老若男女を問わずに愛用される存在になっている。

一方、環境問題への強い危機感から生み出したのが、2010年に発表した「132 5. ISSEY MIYAKE(132 5. イッセイ ミヤケ)」というブランド。改良を重ねた再生ポリエステル生地を用いた服を発表した。

人々のため、社会のためという意識

このように、三宅氏が生み出した一連の仕事は、遠い将来から見たときにも、デザインの歴史の中で脈々と生き続ける、あるいは評価されるに違いないものが、脈々と連なっている。

その功が認められ、2010年には文化勲章を受章するとともに、広島県の名誉県民、広島市の名誉市民に選ばれている。

しかも、「プリーツ プリーズ」にしても「エイポック」にしても、「バオバオ イッセイ ミヤケ」にしても、世に送り出したヒット作について、1つのところにとどまることなく改良と進化を重ね続けた。よりよいものを、より多くの人にという強い意思の現れだったのだろうと想像が及ぶ。

三宅氏が抱いていた、人々のため、社会のためという意識は、自身のもの作りにとどまることなく、ファッションやデザインに対する思いにもつながっていた。

2007年に「21_21 DESIGN SIGHT」を文化発信の器として世に送り出した。ファッションやデザインといった業界の垣根を越え、創造性こそが人々の暮らしを魅力的に彩ることを、多面的な活動を通して伝え続けた。

卓越した創造性を支えたのは、自己表現への強い欲求とともに、それを凌駕する人や社会への深く広い思いだった。心からご冥福をお祈りします。

川島 蓉子 ジャーナリスト

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かわしま ようこ / Yoko Kawashima

1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了後、伊藤忠ファッションシステム入社。同社取締役、ifs未来研究所所長などを歴任し、2021年退社。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)、『すいません、ほぼ日の経営。』『アパレルに未来はある』(日経BP社)、『未来のブランドのつくり方』(ポプラ社)など。1年365日、毎朝、午前3時起床で原稿を書く暮らしを20年来続けている。

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