国の鉄道運賃「見直し議論」、誰が最後に笑うのか 当面は現行制度の範囲内、「小手先」で終わる?

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一方で、利用者側からは、全国消費生活相談員協会が「オフピーク運賃を利用できない人など多種多様な人の意見を聞くべきだ」とすると同時に、「自然災害への対策を運賃に含めるのは、自然条件が厳しい沿線の人が心配するのではないか」と疑問を呈した。

認可制から届出制への緩和、総括原価方式の見直し、収入激減や自然災害による巨額の復旧費用などの運賃への反映、さらにオフピーク定期の導入など、鉄道会社側からのさまざまな提案と利用者側からの要望など幅広い意見が出た。これを受けて山内弘隆・武蔵野大学経営学部特任教授を委員長とする8人の委員が議論した。

総括原価の「算定方式」見直しへ

そして作成された中間とりまとめ案は次のような内容だ。

まず、現行制度は鉄道会社が不当に高額な運賃・料金を設定する可能性を排除していると評価したうえで、問題点も指摘された。例を挙げれば、現在の総括原価方式では減価償却費が総括原価に反映されるが、減価償却期間が長いと中長期的に必要となる投資が早い段階で運賃に反映されず、車内セキュリティ対策、カーボンニュートラル、自然災害に備えた施設強化の前倒しといった鉄道会社の積極的な投資につながりにくい。

また、現行の運賃制度では認可運賃の範囲内で自由に運賃を設定できるが、ほとんどの鉄道会社が認可運賃を実際の運賃として設定しているため、運賃を上げようとするとあらためて運賃の認可手続きが必要となる。さらに、鉄道とバスの連携など地域公共交通の利便性向上が求められる中で、交通モードごとに別々の運賃制度が採用されており、これが連携を妨げることにもなりかねない。これらはいずれもこれまでの協議の中で指摘されてきたことだ。

7月26日に開催された「鉄道運賃・料金制度のあり方に関する小委員会」の様子(記者撮影)

そこで、当面の対応として、「セキュリティ対策やカーボンニュートラルへの対応といった今日的な課題をはじめとする社会的要請の変化に対する投資やコストを適切に総括原価方式に反映する手法」を含め、今夏以降に総括原価の算定方式を見直すとともに、現行制度の運用を改善していくとした。また、地方部においては、地域の関係者が合意すれば認可運賃とは異なる運賃設定を可能とするような制度の構築を検討するとした。

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