「続く咳=コロナ後遺症」に医師が異を唱えるワケ 真の「後遺症」は訴えの半数、驚きの最新研究

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この研究は、バイオバンクに登録されている7万6422人のオランダ北部住民(18歳以上、平均53.7歳、女性60.8%)にウェブアンケート調査を実施し、4231人(5.5%)の新型コロナ感染者と、その比較対照群として8462人が抽出され、データが解析された。

新型コロナに関しては、2020年3月31日から2021年8月2日までに、アルファ株(英国型)もしくはそれ以前の変異株による23の身体症状について、調査・記録が行われた。

これまでのコロナ後遺症の研究は、発病後についてのみ症状が収集され、発病前に同じ集団でどのような症状を、どの程度の人が有していたか、はわからなかった。バイオバンクは、個人の遺伝子と、疾病との関連を調べる為の研究であり、協力者は経時的に、どのような症状があるかを記録している。その登録者に協力してもらった調査の最大の特徴は、コロナ発症前から症状が記録されていることだ。

新型コロナ感染後90~150日後の後遺症としては、感染前および比較対照群と比べ、胸痛、呼吸困難、呼吸時に痛み、筋肉痛、味覚・嗅覚障害、四肢のうずき、喉のつかえ、暑さ寒さに交互に襲われる、腕や脚が重い、全身倦怠感といった症状が見られた。

ただし、訴えのあったすべてが本当にコロナによる後遺症かどうかはわからない。

後遺症として生じた可能性があるのは「12.7%」

そこで、コロナ陽性で後遺症を訴えた21.4%(1782人中381人)から、コロナ陰性でも同じ期間に同様の症状を訴えた8.7%(4120人中361人)を差し引く。得られたのは、「上記の症状が後遺症として生じた可能性があるのは、新型コロナ患者の12.7%である」という推計値だ。

2割超の人が後遺症を訴えたが、実際に後遺症であるのはその半数強にすぎない、ということだ。今後の後遺症診断にも重要な意味を持つだろう。

確かに新型コロナでつらい思いをした患者さんにしてみれば、何であれ後遺症との診断を要求するのは「当然の権利」と思うかもしれない。「日常生活に重大な支障」とまで言えなかったとしても、咳が続けば煩わしいだろう。

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それでも医師やスタッフたちが、わが身を感染の危険にさらしながら新型コロナ診療を続けているのは、軽微な咳を理由に保険認定を得るお手伝いをするためなのだろうか──。

どうすることが「医師としての正義」なのか。社会は医師や医療に何を求めていくのか。後遺症についてさらなる研究と議論を求めると同時に、新型コロナにおける医療のあり方・役割についても改めてコンセンサスを築く必要があると感じている。

久住 英二 内科医・血液専門医

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くすみ えいじ / Eiji Kusumi

1999年新潟大学医学部卒業。内科医、とくに血液内科と旅行医学が専門。虎の門病院で初期研修ののち、白血病など血液のがんを治療する専門医を取得。血液の病気をはじめ、感染症やワクチン、海外での病気にも詳しい。

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