復旧へ青信号か、JR「肥薩線」支える地元の大奮闘 官民そしてJR九州、3者一体での取り組みがカギ

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肥薩線の八代―人吉―隼人間124.2kmの全線開業は1909年に遡る。当時は鹿児島本線の一部として建設され、九州を縦断する幹線路線としての重要な役割を担った。その後、1927年になり八代―鹿児島間の海岸沿いに線形の良い新線が開業し鹿児島本線の役割を譲ると、旧線区間は肥薩線と改められ、鉄道としての地位は徐々に低下することになる。

1987年の国鉄分割民営化を経てJR九州に移管された後しばらくは、熊本―人吉間を運行する急行くまがわ号と熊本―宮崎間を運行する急行えびの号を中心に都市間輸送路線の役割を担うことになるが、2000年に急行えびの号が廃止になると、とりわけ利用者が少ない人吉―吉松間では廃線の可能性も取り沙汰される事態となっていた。

しかし、2004年の九州新幹線、新八代―鹿児島中央間の部分開業以降は、肥薩線は観光路線として注目を浴び始めることになる。JR九州は、「SL人吉」「いさぶろう・しんぺい」「はやとの風」など相次いで話題性の高い観光列車を導入。2011年の博多―鹿児島中央間の九州新幹線の全線開業時には、熊本や鹿児島方面から肥薩線に乗って人吉を訪れるという観光客の動線が定着した。

こうした取り組みにより、肥薩線は人吉温泉をはじめとした沿線の観光活性化に必要不可欠な地位を確立。さらに活性化の効果は、人吉駅を起点に湯前駅までを運行する第三セクターのくま川鉄道にも影響を及ぼし、2014年からは同鉄道で観光列車「田園シンフォニー」の運行も開始された。

肥薩線の観光路線化にJR九州が果たした役割は大きく、沿線の関係者からは「JR九州が肥薩線の活性化に力を入れてくれたおかげで地域が活気づいた」という声も多く聞かれる。

県の後ろ盾があるから仕事をしやすい

人吉市の松岡市長(写真:人吉市)

人吉球磨観光地域づくり協議会や肥薩線利用促進・魅力発信協議会の会長として肥薩線の活性化に関わってきた、人吉市長の松岡隼人氏は「肥薩線の復旧に関しては、これまで長年にわたって蓄積されてきたJR九州との良好な関係や県との協力体制もあり沿線自治体の首長としても仕事は大変進めやすい」と話す。

道路や河川工事との連携によるJR九州の復旧費用の減額も話題となっているが、これは、2016年熊本地震で被災した豊肥本線の復旧時に熊本県が前例を作ってくれたもの。鉄道の復旧・維持については、最近では地元負担額についての話も出ているが、県はこれについても沿線自治体の財政規模に配慮する姿勢を見せている。人吉市の一般会計予算額は通常時で160億円前後、球磨村では40億円前後と財政規模が脆弱な自治体も多い。

次ページバスのほうが安上がりという声もあったが…
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