安倍晋三政権以来の日本は「インド太平洋」という地理的な概念を重視するとともに、「開かれ安定した海洋」という海洋国家としてのアイデンティティーからもシーコミュニケーション(海路)を安全に航行することの重要性を強調するようになってきた。
その1つの帰結が、2016年8月にケニアのナイロビで安倍晋三首相が演説の中で触れた「自由で開かれたインド太平洋」構想である。これは、太平洋とインド洋という2つの海洋を視野に入れて、そこにおいてルールに基づいた国際秩序を、価値を共有する諸国とともに日本が主導して構築していくことを目指す戦略である。
岸田政権が採る経済安全保障戦略
岸田政権は、安倍政権が推進した「自由で開かれたインド太平洋」構想を継承しながら、さらに安倍政権時には十分には進展できなかった経済安全保障をより重視して、経済安全保障推進法を導入した。いわば、インド太平洋地域という地理を舞台に、日本が中核的なアクターとして、日米同盟やいわゆるクアッドという日米豪印の枠組みを発展させて、ルールに基づく国際秩序を確立していく戦略である。
その際に、中国が展開していることが懸念されている影響力工作や、サイバー攻撃、知的所有権の侵害といった問題に対して、より実効的に対応する必要に迫られている。
南シナ海や東シナ海で軍事行動を活発化させて、領土紛争ともなっているような島嶼においても軍事基地化を進める中国に対する国際社会の懸念が募る一方で、日本にとっても、韓国にとっても、ASEANにとっても中国は最大の貿易相手国となっている。さらにはRCEP(地域的な包括的経済連携協定)を締結したことで、その傾向は継続、拡大していくだろう。
安全保障上の考慮と、経済的利益上の考慮と、それらを総合する地経学戦略を日本はこれから真剣に考慮していく必要がある。それは、これまでに経験したことがない、脅威が不明瞭で、対処が困難な、よりいっそう難しい時代に入ったことを意味するのだ。
(細谷雄一/API研究主幹、慶應義塾大学法学部教授、ケンブリッジ大学ダウニング・カレッジ訪問研究員)
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