トヨタが水素エンジントラックに本気を出した訳 いすゞ、日野、デンソーなどと企画・研究開発開始

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水素を充填する水素ステーションも、稼働率がなかなか上がらない。これを終日稼働するようにすれば、充填する車両が来るたびに昇圧するといった手間や無駄が省けるし、もちろん商売としてもプラスになる。たくさんの車両が訪れるとなれば、その近隣にも水素ステーションをという動きができる。そうなると現在は大きな課題の水素の輸送コストを下げることにも繋がっていく。

こんなふうに効率の良い水素ステーション運営のためには、商用車で使うのがいい。たとえば事業所内で所有する車両について、水素ステーションが効率良く運転できるよう、そして出来るだけ非稼働時間が少なく済むよう連携されたスケジュールを組むことが可能だからだ。そうなれば、カーボンニュートラルはどんな業界にとっても課題であるだけに、導入促進に繋がるに違いない。

いかに売っていくかが極めて重要に

現状では端的に言って、水素エンジン車であれFCトラックであれ、価格は高いのに荷物スペースは侵食されて狭いクルマだ。もちろん、それを進化させていくのは急務だが、一方で、単にクルマを開発すればいいわけではなく、いかに売っていくかこそが極めて重要になってくる。

そのためにはこうした運用してもらいやすい、買ってもらいやすいシステムづくりは重要である。すでに実績あるコネクティッド機能などを駆使して業務や運行管理の効率化を図る手立てを提供し、それによってコスト削減が実現すれば、ようやく「じゃあ水素エンジン車を導入してみましょうか」という話のテーブルについてもらえる。中嶋Presidentの話を聞いていると、トヨタとしてはそのぐらいに現実を見ているようである。

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今回、発表はしたものの、大型商用車向け水素エンジンは現時点ではテストエンジンすらできていない状況だという。中嶋Presidentは言う。「それでもあえて発表したのは、水素エンジンに真剣に取り組んでいることを示すためでもあります。そして、興味があるというメーカー、サプライヤー、その他の企業にもどんどん入ってきて、仲間になってほしいのです」。

水素エンジンはヨーロッパなどでも、やはり商用車を中心に将来の有力な選択肢という見方をされつつある。日本としていかに世界に先駆けていくかという意味でも、実は大いに注目すべき発表だったと言っていいはずだ。

島下 泰久 モータージャーナリスト

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しました・やすひさ / Yasuhisa Shimashita

1972年生まれ。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。走行性能からブランド論まで守備範囲は広い。著書に『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)。

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