参院選での自民党大勝を受けて、岸田文雄首相は党内での求心力を維持し、2025年夏の参院選まで国政選挙の予定がなく安定的に政権運営できる「黄金の3年」を手に入れた。「新しい資本主義」の方針に基づき、アベノミクスの柱の一つである日本銀行の金融緩和路線が維持される公算が大きいと識者らは予想している。
岡三証券の会田卓司チーフエコノミストは、「参議院選挙では、積極財政とアベノミクスの融合となった骨太の方針が国民の信任を得たことになる」とし、「新しい資本主義型アベノミクスとして推進されていくことになろう」と予想した。
ソニー・フィナンシャルグループの森本淳太郎アナリストは、「岸田首相としてもすぐに何とかしないと支持率が下がるということではないことが分かったので、少なくとも黒田総裁の任期中は今の政策を続けやすくなったのではないか」と話した。
岸田首相が掲げる新しい資本主義の実行計画では、「大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の3本の矢の枠組みを堅持する」としており、アベノミクスの継承がうたわれた。
岸田首相は参院選後の会見で、新しい資本主義について、「実行計画に沿ってビジョンを実現させていく」意向を表明した。ただ、安倍氏死去を受けて党内力学が変わるとの見方もある。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美チーフ債券ストラテジストは「当面、政府・与党からアベノミクスの見直し論が表立って出てくるとは考え難いが、安倍氏がいなくなるとアベノミクス継続を求める与党内の声が弱まり、日銀が大規模緩和を修正する際の政治的なハードルは下がる可能性がある」とみる。
日銀が緩和路線を維持するかどうかに市場の関心が高まる中で、来年4月に任期満了を迎える黒田東彦日本銀行総裁の後任人事の行方も焦点の一つだ。
JPモルガン証券の西原里江チーフ株式ストラテジストは、「後任人事では、もはやリフレ派が選ばれる可能性は極めて低くなった。こうしたボードメンバー構成の変化は、政策決定に影響を与える可能性が高い」と予想している。
共同通信によれば、岸田首相は物価高騰対策の大型補正予算編成を本格的に検討し、10月にも秋の臨時国会を召集し成立を図る。
岸田首相は11日の会見で、日本国内で物価上昇がさらに続く場合は、「新しい対策も用意しなければいけない」と語り、当面は予備費5.5兆円を機動的に活用して対処する考えを示した。補正予算については「状況の変化をしっかり見た上で、必要に応じて適切なタイミングで次の経済対策も考えていく」と述べるにとどめた。
大和総研の神田慶司シニアエコノミストは、大型経済対策の「一段階は痛み止めとして物価高で家計や中小企業中心に傷ついているため対応。二段階目で新しい資本主義を実行する上で、鍵になる政策を中心に行っていく」との見方を示した。
参院選は10日に投開票され、自民党は125議席(改選124、欠員補充1)のうち、単独で過半数の63議席を獲得し大勝した。自民・公明両党では76議席。
市場関係者の見方
岡三証券の会田卓司チーフエコノミスト:
- 自民大勝で党内での岸田首相の求心力は維持され、岸田政権の新しい資本主義の方針は堅持される。参院選後の課題は新しい資本主義をしっかり稼働し、国民にその成果を早急に実感させることだろう
- リスクシナリオとして、拙速な財政再建路線を維持し、経済対策が不十分で歳出削減や増税でネットの資金需要を消滅させれば、新しい資本主義は稼働せず、岸田内閣の求心力は一気に衰えてしまう
大和総研の神田慶司シニアエコノミスト:
- 諸外国に比べると経済活動の正常化が遅れているため、経済対策の第二段階では、そこに対する手当をやっていくのではないか。県民割りや全国旅行支援、GOTOなどの予算を補正で積んでおく
- 安倍元首相よりも岸田首相の方が元々金融緩和に批判的だったため、緩和一辺倒の人よりも、出口も含めてバランスの良い方、中立的に金融政策を考える方が選ばれやすいのではないか
住友生命保険運用企画部の武藤弘明上席部長代理:
- 自民党内の財政拡張・超異次元緩和継承路線を気にしつつやっていたのが、そこのストッパーが明らかに緩むと思う
- 岸田首相は今の日銀の異次元緩和はやり過ぎではないかという主張をしている。選挙期間はそういう主張はなかったが、ほとぼりが冷めたらそこは柔軟に見直した方がいいと言い出す可能性はある
- 物価高を相殺するような財政出動はあると思う。ただ岸田首相はどちらかというと緊縮寄りで、公約以上のことはやらないだろう。バラマキ型の政策はやるべきではないという方向に行くのではないか
JPモルガン証券の西原里江チーフ株式ストラテジスト:
- 安倍氏死去により、岸田首相は従来よりも強い政治基盤を持つことになる公算が高く、財政再建、金融政策正常化などの岸田氏の政策カラーがより色濃くなる見通し
- 安倍氏は黒田総裁によるリフレ派をサポートしていたことで知られていたため、金融政策正常化が進みやすくなることが想定される
- 23年4月の黒田総裁退任に向けた正副総裁の後任人事では、もはやリフレ派が選ばれる可能性は極めて低くなった。こうしたボードメンバー構成の変化は、政策決定に影響を与える可能性が高い
- 岸田氏の政治的基盤が強まり、構造改革に繋がる政策が進められるならば、株価はポジティブな評価に転じる可能性があろう
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美チーフ債券ストラテジスト:
- 選挙結果が日銀の金融政策に与える影響は短期的には小さい。物価高が争点の1つとなる中、岸田首相は日銀の緩和政策継続を支持したため
- 当面、政府・与党からアベノミクスの見直し論が表立って出てくるとは考え難いが、安倍氏がいなくなるとアベノミクス継続を求める与党内の声が弱まり、日銀が大規模緩和を修正する際の政治的なハードルは下がる可能性がある
- 今後の自民党内の派閥力学の変化には注意したい
東海東京調査センターの平川昇二チーフグローバルストラテジスト:
- 安倍氏死去が有権者の投票行動にも影響を及ぼした可能性があるものの、自民勝利ケースの参議院選挙後の株高傾向を考えると安定政権と内閣改造への期待を背景に株高が予想される
(岸田首相の会見での発言を追加します)
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著者:占部絵美、氏兼敬子
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