カープファンに限らず、市民や観光客の目を引くカープ電車。それだけに苦労をすることが多いようだ。
諏訪課長は「気を使うのは選手の移籍や退団。移籍報道があるとびくびくする」と話す。肉声案内を担当している選手が退団をすることになるとその代役が必要になるし、車内に掲示する選手の写真も変わってくる。
選手の変動といえば、全国のカープファンが泣いた黒田博樹投手(当時)が大リーグから復帰した際にも工夫した。2010年から5年連続2桁勝利という活躍をして、メジャー球団から高額年棒を提示されていた黒田投手がカープに戻ってくるという報道が出たのは2014年12月下旬。注目を集める黒田投手復帰となれば、2015年のカープ電車のデザインに使わないわけにはいかない。だが、スケジュールの都合で写真が間に合わない。
そこで考えた末に、他の選手が写真で電車内に掲出される中、黒田投手については「カープファンが見れば、黒田投手とわかるピッチングフォームのシルエット」(諏訪課長)を用いて「COMING SOON」とデザインした。そのうえで、2015年シーズンが始まった後、黒田投手本人の写真と差し替えた。
優勝のときの花電車やヘッドマーク、列車の装飾にも関係者が腕を振るう。シーズン中、いよいよ「今年は優勝しそうだ」という状況になってくると早めに準備を始め、優勝が決まったらすぐに車庫に止まっている電車にヘッドマークなどの装飾を施し、タイムリーに翌日から運行できるようにしているという。
カープは一大ブランド
カープ球団でライセンス部や地域担当室の課長を務める山根章平さんは、商標の無償使用を認める理由について「カープという球団が地域に支えられて育て上げられてきた球団であり、自分たちなりの地域へのお返し」と話す。
使用の許否は申請を受けたうえで個別具体的な判断となる。鉄道やバスなど民間企業が運営していても公共性が高い場合は無償使用を認めているという。広島電鉄のほかには、県北部でバス事業を展開する備北交通のカープラッピングバス、「芸備線にカープ号を走らす会」が取り組んだキハ120のラッピング列車の例がある。
カープ球団は、原爆の甚大な被害の跡が残る広島で1950年に設立された。市民が「自分たちの球団」という愛着を持って、「広島といえばカープ」「カープといえば広島」というべき存在にまで育ててきたカープは、同地の一大ブランドである。カープ電車は市民から長年愛されている球団ならではの商標の効果的な活用法を示した好例といえるだろう。
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