トヨタと日産・三菱自のEV、出足から分かれた明暗 個人向け振るわぬトヨタ、新販売方法で苦戦

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車検費用や税金など、車の維持に必要な金額が全部含まれているとはいえ、自分の所有物にはならず、消費者には割高と判断された可能性が高い。

bZ4Xに試乗したという別の販社の社長は「目をむくような先進性がなく、個人的には何としても欲しいとは思わなかった。商品のプレミアムを求める富裕層には響かなかったのでは」と分析する。

国内発売がトヨタのbZ4Xと同じ5月12日で、競合する日産自動車の新型EV「アリア」は5月末時点で4973台を受注。これから発売する別グレードの予約受注はすでに5600台に上る。半導体不足もあり納車には時間がかかる見通しだが、好スタートを切った格好だ。

bZ4Xは出足が鈍いなか、新たな問題も発生している。

トヨタは6月23日、「bZ4X」と兄弟車であるSUBARUの「ソルテラ」について、国土交通省にリコール(回収・無償修理)を届け出た。急旋回した際などに、タイヤを取り付けるボルトが緩み、タイヤが脱落する恐れがあるという。

リコールの対象は2社合わせて204台。対象車両は展示車や試乗車などでエンドユーザーには1台も納車されていなかった。ただ、現時点で不具合の原因は特定されておらず、生産や出荷を停止する。

キントの運営会社はbZ4Xの認知度を引き上げようと、6月以降、大阪を皮切りに東京や愛知で大規模な試乗イベントを順次開催する予定だったが、今回のリコールを受けて中止を決めた。トヨタの新型EVは前途多難な船出となっている。

日産・三菱自の軽EVは絶好調

一方で、日産と三菱自動車が6月16日に発売した新型軽EVは両社合わせて受注台数が先行注文の3週間で約1万4千台と好調だ。このうち三菱自は月販目標台数の850台の4倍に達する約3400台を受注している。

「往年のブルーバードやスカイラインといった主力車種がヒットしたときのような異次元の売れ行き」(首都圏の日産系販社幹部)「EVで最も身近なモデルとして受け入れられており、目標を上回る数字となっている」(九州地方の三菱自系販社担当者)。販売現場からは予想以上の売れ行きに手応えを感じる声が多く上がる。日産幹部も「性能や価格を含めた軽EVのコンセプトそのものが売れている」と分析する。

日産の「サクラ」は短い航続距離で価格を抑えた効果があり、多くの注文が入っている(写真:日産自動車)

車そのものの評価に加えて、躍進の大きな原動力となっているのが手頃な価格設定だ。

日産が「サクラ」、三菱自が「eKクロスEV」として販売する軽EVは、販売価格を最も低いグレードで230万円台に設定した。トヨタ「bZ4x」や日産のEV「アリア」が500万円以上の販売価格を設定したのに対して、廉価性が競争力を左右する軽自動車モデルと言うこともあって価格水準の低さが際立っている。

満充電時の航続可能距離は一般的なEVに比べて半分程度となる約180キロメートルだが、これは生産コストのうち大きな割合を占める電池の搭載量を抑えるため。通勤や通学、送迎など短距離の利用を想定し、世帯の2台目や街乗り需要をターゲットとしている。

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