黒田総裁発言の騒動が示した「リフレ派の終わり」 GDIが示す「所得環境の厳しさ」を重視すべきだ

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実質GDPと比べて実質GDIの停滞は著しい。両者の差は交易条件の変化(=交易利得・損失)であり、海外への所得流出(交易損失)が大きくなれば実質GDIが低下する。これは当然、物価上昇に伴う実質所得環境の悪化も示している。

巷間言われる「悪い円安」論も結局、家計部門のコスト負担を端的に述べた議論であり、「円安の良し悪し」というよりも「実質所得の良し悪し」が本質的な問題の所在である。その意味で円安は輸入物価上昇を通じて交易損失を拡大する方向に作用するので「悪い」という判を押す向きが多い。

もちろん、一方で大企業・輸出製造業を中心に企業利潤は増えるため、「良い」ともいえる。だが、経済主体の「数」で言えばおそらく「良い」という人よりも「悪い」という人が多いからこそ、昨今の「円安」や「値上げ」の話でこれほどまでに悲観的な空気が充満するのであろう。

いずれにせよ今回の騒動で「世論の物価上昇への嫌悪感」と「日銀の金融政策」という2つの論点が接近してしまったのは間違いない。政府・日銀としては極力避けたかった事態のはずであり、金融政策に距離を置いてきた政府の挙動に変化があるのかどうかに注目している。
 

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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