黒田総裁発言の騒動が示した「リフレ派の終わり」 GDIが示す「所得環境の厳しさ」を重視すべきだ

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リフレ政策は2013年の導入当初こそ民主党政権から安倍政権への変化の中で熱狂的に受け入れられたが、それが目指したインフレ期待の底上げが実現した暁には世論のバッシングが待っていたわけで、1つの区切りを迎えたように見える。今回の騒動をもって、2013年以降から続いてきたリフレ政策が実質的に幕を閉じたと筆者は理解している。

一連の発言に関し、黒田総裁は翌7日の参院財政金融委員会で「家計が自主的に値上げを受け入れているという趣旨ではない。誤解を招いた表現となり申し訳ない」と謝罪した。確かに、発言の趣旨は従前どおりでもその表現にまずさはあった。

問題となった発言は渡辺努・東京大学教授が4月に実施した「なじみの店でなじみの商品の値段が10%上がったときに、どうするか」というアンケート調査において「値上げを受け入れ、その店でそのまま買う」という回答が半数を超えたという事実に依拠しているという。

図表はflourishで作成

ただ、方々で指摘されるように、これは「受け入れている」のではなく「諦めている」という表現が適切だろう。消費者物価指数(CPI)が示すように、「なじみの店」「なじみの商品」と限定しているが、今は社会全体で一般物価が上昇し、しかもしばらく続きそうである。

こうした状況下でも家計は生きるために消費をしなければならない。「値上げを受け入れなくても他店で安く買える」「値上げを受け入れず消費しない」という選択肢が徐々に塞がれつつあるという実情の中で、確かに配慮を欠いた発言ではあったかもしれない。

そもそも日銀自身が四半期に1度公表している『生活意識に関するアンケート調査』に目をやれば、直近4月分において現在の暮らし向き(1年前対比)に関し「ゆとりが出てきた」との回答が減少し「ゆとりがなくなってきた」との回答が増加した結果、「暮らし向きDI」は悪化している。発言後の世論の反応を見るかぎり、どちらかといえばこのデータのほうが世論の肌感覚を端的に示しているのではないか。

実質GDIが示す所得環境の厳しさ

家計・企業といった民間部門の実質的な所得環境がいかに悪化しているかということへの問題意識が低かったという指摘もできる。現状、日本経済全体としての所得環境は目に見えて悪化しており、その事実に基づけば「値上げを受け入れさせられている」という表現がしっくりくる。

過去の東洋経済オンラインへの寄稿(『日本はなぜ「成長を諦めた国」になっているのか』『間違いなく「悪い円安」が日本経済を蝕んでいく』)でも繰り返し議論しているように、この点は実質GDI(国内総所得)を見るとよくわかる。今の日本経済が直面している問題を正確に把握するには、国内の生産実態を捕捉する実質GDP(国内総生産)よりも、所得実態を捕捉する実質GDIのほうが向いている。

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