同級生の前で「残してごめんなさい」心の傷に… 教師の完食指導で「会食恐怖症」になる子ども達

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ただし保育園では、子どもたちが小さいぶん、大人が主導で進めてしまうので、行き過ぎた完食教育も起こりやすい。新年度は、そういった完食教育を受けたことで、給食が嫌い・苦手になった子どもが小学校に上がる際、給食を嫌がらないか、学校に行きたくないと言い出さないか、など心配する保護者の方から相談が増えています。

完食指導がきっかけで「会食恐怖症」に

── 一部で行われている完食教育には、どんな問題があると考えていますか?

まず、完食教育そのものがすべて悪ではなく、問題があるとすれば、つい不適切な指導になってしまうことだと考えています。

本来は1人ひとりの生徒に寄り添い、好き嫌いなどを理解したうえで、個別に指導していくべきです。そうではなく、一律で「残さず食べなさい」と言いつけ、食べ終えないと昼休みまで居残りさせるような、過剰な完食指導しかやり方を知らないことが問題なのだと思います。

──過剰な完食指導によって、子どもにどのような影響があるのでしょう?

給食の時間や、食べることそのものが苦痛になってしまう恐れがあります。人前でご飯を食べることに不安や怖さを感じる、会食恐怖症という疾患があるのですが、発症のきっかけを調査したところ、最も多いのは完食指導だったという結果もあります。給食が嫌だから学校に行きたくないと、不登校になってしまう子もいます。

──文科省は完食指導を推奨していません。それにもかかわらず、なぜ起きてしまうと思いますか?

2つあると思います。1つは教員が、偏食の子どもにどう指導すればいいか、学ぶ機会が少ないこと。文科省による「食に関する指導の手引」というガイドラインがあるのですが、教育現場にはそこまで浸透していません。給食に関する研修や勉強会もあまり行われていないため、教員は自ら勉強して知識を得るしかないのですが、通常業務で忙しく、時間が取りづらい現状があるのです。

2つめは、教員の多くが実体験に基づいた指導を行っていること。2017年に行われた「給食指導で参考にしていることは?」の調査(※)で、1位と2位を占めたのが「自分が家庭で受けた教育」「自分が小学校のときに受けた給食指導」でした。教員自身が受けた教育を、そのまま生徒にしてしまっているのです。

(※福岡景奈,赤松利恵,新保みさ,小学校における学級担任による給食指導:―栄養教諭・学校栄養職員と相談している教員の特徴―.2017)

──子どもが不適切な完食教育を受けていることに気づいたら、家族はどう対処すべきですか?

給食が嫌だというお子さんに対しては、つらい気持ちを認めてあげることです。それをせずに、「頑張って食べなさい」と言葉をかけると、両親に話しても無駄だと思い、子どもは殻に閉じこもってしまいます。

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