日米の株価がもう一段上昇しそうな「2つの理由」 ただし2023年は景気が反落する懸念がある

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もう1つのペントアップデマンドは、世界全体の投資(設備投資や建設投資など)だ。IMF(国際通貨基金)の推計では、2019年の投資は0.2%増と、好景気にもかかわらず、伸びが極めて抑制された。

これは、前年の2018年に当時のアメリカのドナルド・トランプ政権が、対中報復関税を連発したことから、米中貿易戦争が台頭し世界経済が悪化するとの懸念が世界の企業の間に広がり、設備投資などが手控えられたためだろう。

そして翌年の2020年には、コロナ禍により、世界全体の投資は前年比で0.6%減少する結果となった。2021年も、まだコロナ禍の行方を見通しきることは難しかった。そのため、世界の投資額は1.0%増と、限定的な回復にとどまった。

こうして、2019年、2020年、2021年と、世界の設備投資や建設投資は、削減ないし伸びが抑制された。このため2022年後半は、企業は3年間手控えた能力増投資や設備更新投資を、まとめて一気に行う展開となる可能性があるだろう。

このような2つのペントアップデマンドがこれから大きく噴出することで、想定外に世界経済が回復力を高め、企業収益が思った以上に増益となり、株価が予想以上に上伸するリスクがあると考える。現時点で悲観に振れすぎている市場心理は、今年末辺りは楽観に振れすぎるおそれがあるだろう。

2023年は景気が反落する?

しかし、そうした経済活動の急拡大が実現しても、実力相応の長期維持可能な需要増だとはいいがたい。抑え込んだ需要の反動増が一巡すれば、来年は経済活動の実力に見合った水準まで景気が反落する展開が生じると予想される。

そうした景気の自律的な反動減に、アメリカでの金融引き締め効果が時差を伴ってのしかかることになるだろう。連銀は中立金利(景気を冷やしも温めもしない金利水準)を、2.4%程度だと推計している。

3月の0.25%幅および5月の0.5%幅の利上げによって、政策金利の下限は元々のゼロ金利から0.75%に押し上がっている。今後連銀は、6月と7月のFOMC(連邦公開市場委員会)で0.5%ずつの利上げを行う方針を示唆している。それ以降の9月、11月、12月のFOMCで経済データを見極めながら0.25%の利上げを毎回行うとすれば、年末時点での政策金利は2.5%を下限とする形となる。

つまり、中立金利を超えるのは年末近くであり、今年内については景気抑制効果はあまり生じないが、来年は本格的に景気が抑え込まれることがありえよう。

ペントアップデマンドの噴出の一巡と金融引き締め効果の本格化が重なることで、来年のどこかでは景気が悪化し、株価も下振れして、今年末辺りに楽観に行きすぎている市場心理は、来年のある時点では悲観にまた行きすぎるだろう。

そうした楽観や悲観の行きすぎを指摘することが、筆者の重要な使命の一つだと考えている。

(当記事は会社四季報オンラインにも掲載しています)

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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