物価研究が専門の渡辺努東大大学院教授は、世界的なインフレ圧力の高まりを背景に日本にも物価・賃金の好循環を取り戻す好機が訪れているとの見解を示した。最後のピースとなる賃上げ実現に向け、日本銀行は金融緩和継続に関し、国民や企業経営者に積極的に理解を求めていくべきだと主張した。
「健全な賃金、健全な価格を取り戻す千載一遇のチャンスが到来している」。渡辺氏は1日のインタビューで利上げなど金融引き締めは「絶対にあり得ない」とした上で、物価上昇が賃上げにつながる可能性があり、実現のために金融緩和を維持する必要があることを日銀は国民に説明すべきだと語った。
新たなメッセージの発信は、黒田東彦総裁が異次元緩和を始めた時と同様の重大な意思決定になるとも指摘し、2013年の共同声明のように政府・日銀の合意が必要になるかもしれないとみる。来年の春闘をにらみ、今秋にも好循環の実現に向けたシナリオを国民を含めて共有できることが理想という。
賃上げが実現すれば、時間をかけながらも賃金と物価が上昇する好循環が展望できるとし、「四半世紀にわたっておかしな状況が続いてきた日本経済の正常化のチャンスだ」と語った。
日本の消費者物価(生鮮食品を除くコアCPI)の前年比上昇率は4月に2.1%と伸びが加速した。日銀が掲げている2%の物価安定目標に水準では到達したが、日銀は、エネルギー主因の物価上昇であり、目指している持続的・安定的な目標の達成ではないと説明している。
日銀出身の渡辺氏は、米欧に比べて低いインフレ率にもかかわらず、インフレ予想が先行して上昇したことを重視する。春ごろまで日本の物価上昇は一過性で終わるとみていたが、賃金上昇を伴ったいいインフレに向かう持続性が出てきて日本人のインフレ期待も変わるというのが、現在のメインシナリオだという。
独自のアンケート調査を分析した結果、新型コロナウイルスやウクライナ侵攻といった外部要因による物価上昇が、日本のインフレ予想と消費者の値上げ耐性の改善につながっていることが判明した。
政府が物価高騰対策として実施しているガソリンなどへの補助金制度に対しては、価格メカニズムが機能しなくなるなどの問題があり、「同じ金額を使うのであれば、所得税減税の方が有効だ」と批判した。減税を賃上げ実現までの過渡的な賃金への補助金と位置付けることで、「消費者も賃金が上がる前触れと理解し、賃金が上がるシナリオを描くことができる」と提案した。
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著者:伊藤純夫、藤岡徹
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