SNSで自分の意見は多数派と思う人が陥る怖い罠 精査したと思っている情報がすでに偏っている

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――フェイクニュースが発生し、社会の分断がSNS上で起きるなかで、プラットフォーム側が負うべき責任はあるのではないでしょうか。

プラットフォームに限らず、責任は各所にあります。ユーザーがSNSで必要な十分な情報を得るには個々人の努力では限界があります。

情報環境の体質改善に向けて、デジタル・プラットフォーム(DPF)事業者、ユーザー、マスメディア、政府などさまざまなステークホルダーが取り組むべき施策を2022年1月に、憲法学者の山本龍彦・慶應義塾大学大学院教授と共同で提言しました。

「健全な言論プラットフォームに向けて――デジタル・ダイエット宣言」というもので、ポイントは5つです。

①幅広い情報にユーザーが触れることができる情報的健康(インフォメーション・ヘルス)を実現すること
②食品の成分表示のように、コンテンツの種目やどんなバランスで表示と配信をしているのかを「情報のカロリー表示」として明らかにし、ユーザーの判断材料とすること
③ユーザーが情報的健康を確認するための健康診断「情報ドック」の機会を定期的に提供すること
④「情報ドック」により、ユーザーが情報的健康に問題があるとなった場合には、希望する者にはバランスのとれた情報摂取ができるよう調整できるデジタル・ダイエット機能を備えること
⑤ユーザーの興味関心で成り立っている経済構造を変えること

情報的健康の達成は、社会的に大きな意義がある

このうち、⑤で提言した新しい経済構造の姿は現時点では明らかではありません。

ただ、ユーザーの趣味嗜好に合わせて広告を打ち出すネット広告の配信事業者のほか、その広告主やマスメディアも「アテンション・エコノミー」の渦に巻き込まれ、PV数といった単純な指標で動き、情報的な健康を阻害しています。そうではなく、その質などによってコンテンツを評価していくシステムの構築が急がれるでしょう。

このような情報的健康の達成は、社会的に大きな意義があります。まず、「エコーチェンバーの内部にいる方が快適な情報空間である」という現状認識を変えていくことは、ユーザー個人から始められる第一歩といえるのではないでしょうか。

取材:板垣聡旨=フロントラインプレス(Frontline Press)所属

Frontline Press

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「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年5月に合同会社を設立して正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や研究者ら約40人が参加。スマートニュース社の子会社「スローニュース」による調査報道支援プログラムの第1号に選定(2019年)、東洋経済「オンラインアワード2020」の「ソーシャルインパクト賞」を受賞(2020年)。公式HP https://frontlinepress.jp

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