SNSで自分の意見は多数派と思う人が陥る怖い罠 精査したと思っている情報がすでに偏っている
――先生はどんな研究を経て、エコーチェンバーの研究にたどり着いたのでしょうか。
普段は、ソーシャルメディアやニュース閲覧行動の分析、AI(人工知能)の社会応用などの研究をしています。直近ですと、2021年10月に豊橋技術科学大学と香港城市大学と共同で「保守の声はリベラルの声よりも中間層に届きやすい」という研究結果を公表しました。これは、安倍政権時代の安倍元首相に関する1億2000万件以上のツイートを解析した結果です。
この研究では、2019年2月10日から10月7日までにツイッターへ投稿された「安倍」または「アベ」を含むツイート(約1億2000万件)を収集しました。そこから、好意的または批判的なツイート群を抽出し、それぞれのツイート群を計10回以上ツイートしたアカウントを保守かリベラルに分けました。
その結果、保守派のツイートは23.23%が中間層に拡散されているのに対して、リベラル派のツイートは6.46%しか中間層に拡散されていませんでした。保守派のツイートを中間層が拡散する割合は、リベラル派より約3.6倍多かったのです。
政治に強い関心を持つ人でツイッターなどのSNSで政治について話をする人は諸外国と比べると、日本では少ないです。それもあって、リベラルの声はリベラル界隈内でとどまり、数の多い中間層に届かない実態が生まれているわけです。これは、いまの政治環境でリベラル派が苦境に立たされている要因の1つと考えてよいのではないでしょうか。
このような研究から、実は多くの人たち、とくに主義主張のある人たちは自分たちの周りに同じような主義主張の人たちが多いことから、多数派であると思っているようなケースがデータ分析をしているうちに多く見つかりました。エコーチェンバーはその分析の中で見られる普遍的な社会現象でしたので、これを分析することは社会を理解するうえで重要なことかと思い、研究を行っています。
デマや誤情報は「勘違い」で流されることがほとんど
――研究対象にSNSを選んだのはなぜでしょうか。
SNSは社会現象を分析するうえでデータを取りやすいツールだったからです。その転換期は、2011年の東日本大震災でした。当時、SNSでは「給油タンクの火災で酸性雨が降る」「うがい薬を飲むと放射線に効く」といったデマが広がりました。
デマや誤情報なんて、最初から「人をだましてやろう」といったものはほぼ存在していません。比率で言えば、勘違いで流されることがほとんどです。ほかにも「面白いから」で誤った情報が拡散されることがあります。
一方では、「正しい情報を発信しなければ」と、社会正義感にかられて熱心に情報を拡散する人もいます。社会貢献をしたつもりになった人たちの暴走ですね。2020年のコロナ禍初期にあったトイレットペーパーの買い占め運動も、社会貢献をしたつもりになっている熱心な人による拡散が原因と考えられます。
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