需要下げ止まりの起爆剤、 「滞在人口増加策」を急げ--上野泰也・みずほ証券チーフマーケットエコノミスト《デフレ完全解明・インタビュー第10回(全12回)》
要点
・実物経済の需給バランスの悪化の進行がデフレを長期化
・観光客、移民の呼び込みと実効性ある少子化対策が急務
・日銀の信認の毀損に結び付く「異例臨時の措置」をやめよ
--日本のデフレは長期化すると、早くから指摘していましたね。
日銀短観の業種別計数を見ていると、消費関連3業種である小売り、対個人サービス、宿泊・飲食サービスはリーマンショックの前から大幅な供給超過だった。経済のメカニズムに従えば、必ず価格が下がる。実物経済の需給バランスにデフレの原因がある。
生産年齢人口の減少、少子高齢化といった人口動態の変化により国内の消費市場は縮小し、地盤沈下のように需要は落ちていく。一方、供給はなかなか減少しない。弱者救済、現状維持に軸足を置いた政府の財政政策、日銀の超低金利政策が続いているために、新陳代謝が悪い。このままの状態で走るかぎり、消費関連ではつねに値崩れが起きる構造が続く。
--処方箋としてどんなことが考えられますか。
私の結論は非常にシンプル。供給を減らすか、需要を増やすかしかない。だが、供給を減らすことは、足元の経済の急激な悪化につながるので、実現可能な経済政策ではない。小泉内閣の時代に構造改革論は盛んだったが、倒産や失業が急増するという懸念から、そこまで踏み込めなかった。民主党政権は弱者救済の色彩が強いので、なおさら難しい。
消去法で需要を増やすしかない。人口の面では、少子化対策をとてつもなく強化しても、日本人だけでは時間もかかり、難しい。同時並行で、外国人の「助っ人」を呼び込む必要がある。具体的には観光客と移民。日本に滞在する外国人を増やして、おカネを落としてもらい、消費市場を拡大する「滞在人口増加策」だ。
日本には、観光の面でコンテンツに厚みがある。日本の農作物は価値が高く、中国人に高く売れている。伝統文化だけでなくアニメや小説、映画、ドラマなどコンテンツがこれほど豊富な国は珍しい。これが生かせていない。海外の人のニーズを、うまくつかむことが需要拡大の起爆剤になる。円高が進行するとマイナスだが、航空運賃の一部補助や空港でバウチャーを配るなど、呼び水となる政策を工夫すればいい。