需要下げ止まりの起爆剤、 「滞在人口増加策」を急げ--上野泰也・みずほ証券チーフマーケットエコノミスト《デフレ完全解明・インタビュー第10回(全12回)》
日銀が創設した資産買入基金にも反対だ。10年前なら、ETFの購入など大反対が起きたのではないか。あれだけ銀行券ルールについて国会で説明し、歯止めをかけるとしていたのに、基金で別枠にした。「臨時異例の措置」という言葉で何もかも尻抜けになっている。国債の直接引き受けなどはもってのほかだ。金融政策はゼロ金利で基本的にゴール。認められるのは時間軸政策までだ。
--インフレ目標を設定すべきだという意見については?
金融理論と現場との両方に携わっている立場からすると、そうした提案は、現場を知らない学者の発想だと感じる。学問の世界では、インフレ目標を政策当局がメッセージとして発すれば、誰もが素直にこれを受け止めて合理的に行動することを前提にしている。今、日銀が3~4%を目標にすると言っても、真剣に受け止められず、しばらくしたら忘れ去られるのではないか。逆に、悪性インフレになると思われたら危ない。市場は本質的に不安定なものだ。
個人のキャピタルフライトと人材流出が怖いシナリオ
--財政危機のリスクが注目されています。
国債の入札で札割れが起きるとか、外国人からリスクプレミアムが要求されて悪い金利上昇が起こるという可能性は徐々に高まっている。国と地方の債務の積み上がりのペースが速く、数年で家計の余剰資金を上回る。企業も余剰資金をいつまでも国内に置いておくかどうかわからない。
こうしたことが見えてきても、機関投資家はキャピタルフライトできない。銀行や保険会社が監督当局の発行する借金証書を信頼しないということには無理がある。為替リスクを取るにも限界がある。しかし、預金の流出は起こりうる。個人のキャピタルフライトの流れが徐々に強まる可能性がある。その流れがある時期に太くなると国債消化は一気にパンクする。預金が減れば銀行は国債の売却を余儀なくされる。この空恐ろしいシナリオがありうるので、日銀が信認を落とすようなことは絶対にすべきでないと考えている。
人材流出も怖い。今回の税制改革のように、個人の高所得者から税金を取るという発想だと、累進課税の強化も予想され、意欲のある若者から海外へ出ていくおそれがある。
■デフレを理解するための推薦図書■
『大いなる不安定』 ヌリエル・ルービニ/スティーブン・ミーム著/ダイヤモンド社
『ソロスは警告する-超バブル崩壊=悪夢のシナリオ』 ジョージ・ソロス 著/講談社
『「依存症」の日本経済』 上野泰也 著/講談社
うえの・やすなり
1963年生まれ。85年上智大学卒業、会計検査院を経て88年富士銀行入行、為替ディーラーを経て90年からマーケットエコノミスト、2000年から現職。『デフレは終わらない』『虚構のインフレ』、『日本経済「常識」の非常識』など著作多数。
撮影:吉野純治
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