資産5兆ドル(約640兆円)を失った新興国市場が、一部の大胆な投資家には買いの好機を提供しているように見え始めている。
新興国市場の弱さは極めて明白だ。株式バリュエーションが過去17年間の平均を下回ったほか、現地通貨建て債券の利回りは2008年の金融危機以降保ってきたレンジを超えて急上昇し、ドル建て債のスプレッドは非常時にのみ見られる水準に近づいている。
段階的かつ慎重に買いを再開する時期
1年3カ月にわたる資金流出を受け、新興国市場のリスク織り込みはかなり進んだ段階にある。一部の運用担当者にとってこれは、強気に出るわけではないが、段階的かつ慎重に買いを再開する時期が来たということだ。それでも特に中国経済がさらに減速したり、米金融当局がタカ派姿勢を強めたりすれば、一段の損失を被るリスクはなお残る。
フィディリティ・インターナショナルのマネーマネジャー、ポール・グリア氏(ロンドン在勤)は「当社は新興国市場の資産クラスについて弱気姿勢を後退させた。ファンダメンタルズは依然として非常に厳しいが、バリュエーション要因に、より好ましいテクニカル面の展望が重なり、短期的なリスク・リワードの非対称性が有意に変わった」と指摘した。
MSCIが新興国市場として分類する24カ国の株式バリュエーション総額は21年序盤に付けたピークから4兆ドル減少し、ブルームバーグのドル建て債と現地通貨建て債の指標はピークからそれぞれ5000億ドルを失った。投資家の最大の懸念は米金融当局による利上げと量的引き締めだが、インフレ高進や中国での新型コロナウイルス感染再拡大、ロシアのウクライナ侵攻も影響している。