アメリカの株価が下げ止まらない「真の理由」 インフレ?金利上昇?それとも景気後退?

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自分自身でじっくり投資対象を分析するのではなく、ネット情報、とくにSNSなどで他人が「この投資先が有望だ」というものに飛びつき、一点集中買いで短期的に手っ取り早く大儲けしよう、という安易な目論見が、アメリカで破綻しているのではないだろうか。

そうした「〇〇さえ投資」していれば大丈夫だとの手法が崩壊して投げ売りとなり、それが前述のような特定の銘柄群の株価を大きく押し下げて、アメリカ株全体にも重しになっているのだろう。

日米とも企業収益の予想値はなお堅調

こうした「特定の銘柄群の投げ売りが足元のアメリカ株不振の本質だ」という見立てが正しければ、まだ短期的には需給面での売り優勢は続きうるが、投げが一巡すれば、企業収益の実態に投資家の目が次第に向かうだろう。

アメリカでは、S&P500指数の予想PER(株価収益率)は、2014年以降はおおむね15~17倍で推移し、そこから上下にはみ出す場合は市場の行きすぎを示してきた。

コロナ禍から脱却する局面では、収益の回復期待が市場で先行しすぎて株価が先に上振れし、2020年9月にPERは23.5倍にまで高まった。しかし、その後は総じてPERの低下が続き、直近の5月20日には16.9倍にまで低下した。過去の長期推移と比べると、決して割安とはいえないが、割高でもない水準となっている。

一方、S&P500採用企業のEPS(1株当たり利益)の先行き12カ月間の予想増益率(アナリスト予想の平均値)では、20日時点においても20.7%増益が見込まれている。世界的に不透明要因は多く、こうした収益見通しは今後下方修正の余地があるだろうが、増益はしっかりと維持しそうだ。

足元では株価が下落していることから「何か深刻なことが企業業績についても起こっているはずだ」との声を聞く。アナリスト予想の平均値で大幅増益が見込まれていると解説しても「アナリストが楽観的すぎる、間違っている」と頭から決めつける向きが多い。

ただ、そうした決めつけは、市場の悲観に飲み込まれ、冷静にデータを見つめることができていないのではないかと、自問する必要があるように思う。

今回のコラムではアメリカについて長く述べ、日本株について多くを割くことができなくなったが、TOPIX(東証株価指数)ベースで同様に見ると、20日での予想PERは12.2倍にとどまる。TOPIXのPERは2014年以降おおむね13~16倍で推移してきたので割安だ。

12倍に近い現在のPERは、2016年の世界同時株安(チャイナショック)時の11.9倍、2018年末にかけての株価下落時(米中貿易戦争懸念)の11.0倍、2020年3月のコロナショック時(10.7倍)に次ぐものだ。また、TOPIXベースのEPS前年比の予想値は、20日時点でも28.8%増益だ。

株価=PER×EPSという算式を踏まえれば、株価の長期的な基調は上方向だ、といえるだろう。

(当記事は会社四季報オンラインにも掲載しています)

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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