北朝鮮がいきなり「感染大爆発」を公表した真因 すでに脆弱な状態で累計120万人が感染か

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またこの時期、北朝鮮全土で田植えの手伝いをする「ボランティア」のチームが派遣されたことによって、ウイルスが広まった可能性もある。こうしたチームは北朝鮮のコメの生産には欠かせないものである。公式メディアは、こうした作業員に対して感染症予防対策の実施にも取り組むよう要請する一方、正恩氏は、国民に恐怖に屈しないよう呼びかけた。

元諜報部員で北東アジアが専門の経済学者、ウィリアム・ブラウン氏は「金正恩氏は、中国のようにある種のバブル方式のようなやり方で、国民に仕事を続けるように話している」と見る。

「したがって工業都市では、部分的に感染拡大予防に伴うよるポケットやバブルが発生し、本当に必要なもの、例えば肥料の生産が落ち込むようなことも起こるだろう。正式な市場があまりにも制限され、業者が街頭に移動した場合、街中で喧嘩が起きる可能性もある」(ブラウン氏)

今回のパンデミックが季節的に食糧危機の時期と重なったことも深刻だ。秋に収穫した食糧はすでに底をついている可能性があり、当然のことながら春に植えたものはまだできていない。

ミサイル実験のタイミングでのパンデミック

また、今回のパンデミックは北朝鮮が度重なるミサイル実験だけでなく、水面下で行うとみられている核実験のタイミングにも重なっている。これは韓国で5月に、北朝鮮に対してより強硬な姿勢を見せている尹錫悦政権が誕生したことに起因しているとみられる。新政権はより大規模なアメリカとの軍事演習を予定しているとされ、南北間の緊張感は強まるとみられている。

北朝鮮政権に近いとされる中国とロシアは、それぞれの問題を抱えているおり、北朝鮮問題に時間を割ける状況にない。5月下旬に日本と韓国を訪れるジョー・バイデン大統領にとって北朝鮮問題は重要ではあるが、目下最も重要な課題となっているのはウクライナである。

金正恩氏が国際社会の支援を求めるようなことがあれば、今回のパンデミックは北朝鮮を少なくとも短期的には変える可能性がある。「正恩氏が核実験など突然の挑発をやめて交渉を行う、といったことはないかもしれないが、そう言ったそぶりを見せることはあるかもしれない」とブラウン氏は見る。

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