例えばスペインは、4月20日に屋内でのマスク着用義務(6歳以上)を原則解除したが、公共交通機関や医療機関、高齢者施設、薬局では、着用義務が継続となった。ただし、駅構内やホームなどで周囲の人と1.5mの距離が保てる場合は、外してもかまわない。
現地「エル・パイス」紙が4月後半に実施したアンケート調査では、「マスク着用義務の解除は時期尚早」と回答した人が54%と過半数に上ったという。「商業・娯楽施設や職場、飲食店でも、感染防止のために自主的にマスク着用を続ける」との回答も6~7割に達した。
フランスも3月14日に着用義務をほぼ全面撤廃したが、公共交通機関と医療関係施設、介護老人ホーム内では、引き続き着用しなければならない。解除後の3月15日の市場調査でも、「公共の場ではマスクを着用する」と回答した人は48%に上った(YouGov)。
2月21日にコロナ規制を全廃した英国でさえ、ロンドンの公共交通機関では着用を「強く推奨」している。
そんな中、日本国内で「脱マスク」議論が急に盛り上がったきっかけは、やはりアメリカでのごたごただろう。
バイデン政権は、CDCの策定に基づく公共交通機関でのマスク着用義務化を、5月3日までに解除する方向だった。ところがその期日を待たずに、フロリダ州の連邦地裁判事が非営利団体(Health Freedom Defense Fund)の起こした訴訟の中で、CDCの策定を「無効」と判断したのだ。
これを受けてCDCも着用を「推奨」に緩和し、大手航空会社は次々に乗客や乗務員の着用義務を解除した。その後、CDCおよびバイデン政権はこの判決を不服とし、司法省が上訴したが、係争は数カ月に及ぶと見られている。
「同調疲れ」が日本の脱マスク論争を過熱
ただ、上記非営利団体は「反ワクチン」を扇動する組織の一つでもあり、判決がアメリカ民の総意を反映したものとは考えづらい。判決ではCDCの策定行為を「越権」としているのであって、策定内容の科学的な妥当性が否定されたわけでもない。
実際、アメリカ人の有権者の6割近くが公共交通機関でのマスク規制撤廃を「まだ早すぎる」と考えている、との報道もある。
頭に置いておきたいのは、「脱マスク」論争の背景が、海外と日本では微妙に異なっていることだ。
海外ではもともとマスクへの抵抗感が強い人が多い。それでも科学的エビデンスに基づく着用義務に従ってきたのだが、オミクロン株以降の軽症化や、ワクチンや感染による免疫獲得の進展もあり、人々は「従う理由がない」と自ら判断しはじめた。
他方、日本で脱マスク論争が過熱するのは、「他人の目が気になって着けざるをえない」といった同調圧力に疲れているからだろう。疑問や窮屈さを感じていたところに海外の脱マスク報道が入ってきて、飛びついたようにも見える。
マスクを外すのは人間の自由だが、コロナは人間界からなくならない。変異を繰り返しながら定着していく。ヒトの側が、知恵と技術で優位を保ちつつ、withコロナに慣れていくしかない。
大事なのは、人々が状況に応じてマスクのオン・オフを適切に切り替えられること。それを個人の自由意志によって行えることだ。そのためには正しい知識を社会が共有する必要がある。筆者自身も情報をつねにアップデートしながら発信を続けていきたい。
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