上海の日本人研究者が見た「日本の大学の危機」 中国は海外帰りの若手や中堅研究者を大量採用

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科学技術力で大きな差が開く日本と中国。中国の大学にいる日本人研究者に、両国の違いを聞いた。

取材に応じた日本人研究者が務める復旦大学は、英国の教育専門紙タイムズ・ハイヤー・エデュケーションによる「世界大学ランキング2022」で60位。日本の大学でこれを上回るのは東京大学(35位)のみ。(Imaginechina/時事通信フォト)

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日本は科学技術力で中国に引き離されている(詳細はこちらから)。研究の中枢を担う大学の状況にも大きな差がある。生命科学の研究者で、東京大学から中国の名門・復旦大学に移籍した服部素之氏(39)に、日本の大学の問題点を聞いた。
服部氏の専門は、構造生命科学。東京大学で研究していた頃には、将来有望な少数の若手研究者のみが採択されるJSTの「さきがけ研究者」にも選ばれたが、研究室を主宰する教授職を求めて2015年に中国に渡った。

――科学技術力において重要な、研究者の卵である博士課程に進む学生が日本では減っていますが、中国では逆に増えています。

中国では学部卒の新卒にそれほど価値がなくて、職歴でキャリアアップしていくというアメリカとも似たところがある。大学院に行っておけばそれがキャリア、専門としてみなされる。そのため、修士と博士で比べても、民間に就職する際の初任給が2倍ぐらい違う。だから、中国では大学院志向、とくに博士課程を重視する考えがある。

国家としても大学院進学率の向上や研究大学(学術研究や研究者の養成を重視する大学のこと)を増やすのに力を入れていて、地方や新設の大学を手厚く支援している。博士課程に行く学生が増えているだけではなく、大学の教授職などのアカデミアのポストも増えているから、研究職に進む人の数も増えているという状況だ。

日本の学生は苦しい立場にある

――日本の博士課程に進んだ学生たちは、研究の貢献に対する手当が少ない一方で、学費の負担が重く、生活が苦しい状況に置かれています。中国の学生の状況はいかがですか。

まず、中国の各大学の博士課程では無尽蔵に人を取っているわけではなくて、むしろ日本よりも人数に制限がある。日本では1つの研究室で1年に10人の学生を取ることも可能だが、それは学生がお金(授業料)を払っているからだ。

一方、中国の場合は、学生はお金を払うのではなくもらう側だ。復旦大学の場合、博士課程なら月に日本円で6万円ぐらい、生活費に費やせる奨学金が出ている。さらにほぼ無料の寮があり、授業料の自己負担も少なく、学食も割安なので、学生は生活に困らずに研究に集中できる。学生の支援にお金がかかるため、中国では定員は厳守だ。私の研究室で採用できる博士や修士は毎年、1人ずつだ。ただ、中国は大学の数も多いので、博士課程の学生の絶対数は(日本などと比べても)やはり多い。

――中国人の自国での常勤の大学教職員職への就きやすさはどうでしょうか。服部先生のように海外からも応募があるとなると、競争は結構厳しいのでしょうか。

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