日産が6年後のEV搭載にらむ「全固体電池」の展望 既存電池と比べ何が優れ、何が実用化の壁なのか

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日産はこの分野で先陣を切れるのか(写真:Kiyoshi Ota/Bloomberg)
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日産自動車が2028年度の実用化を目指して開発中という全固体電池の試作生産設備を公開した。神奈川県横須賀市にある日産総合研究所内に設置されたこの設備では、全固体電池の積層ラミネートセルの試作生産が行われる。

現在の車載用バッテリーの主流であるリチウムイオンバッテリーが電解質として有機電解液を用いるのに対して、全固体電池とは、その名の通り固体電解質に正極と負極の間のイオンを行き来させる機能をもたせたバッテリーである。

次世代車載用バッテリーの本命と言われるワケ

安全性が高く、温度に対する寛容度が大きく、常に反応している液体と比べて劣化が小さいといったメリットを持つ一方で、肝心なリチウムイオン伝導度が低いのが欠点だったが、硫化物系固体電解質が高いイオン伝導度を持つことが“発見”されると、にわかに次世代車載用バッテリーの本命と言われるようになった。

固体電解質は材料間の不要な副反応が減少するため現在はニッケル・マンガン・コバルトという高コストな材料が使われている正極に、硫黄・マンガンといった安価な材料を使うことが可能になる。一方、負極も現在使われているグラファイトよりリチウム格納量の大きい材料を用いてエネルギー密度を高めることができる。

また、液漏れ、発火の危険性がある有機溶液よりも安全性が高く、保存しておくだけで劣化することもない。運転温度限界が高いことから充電速度を高めるのも容易だ。繰り返しの急速充電も強力な冷却が不要になる。より軽い材料を選べることから重量エネルギー密度も高く、同じ航続距離ならバッテリーはよりコンパクトにでき、同じサイズならより大きな容量が得られる。

しかも現在は電池パック内の少なくない容積を占めている冷却系部品が省けるようになり、また高い安全性によりそれに関わる部品も同様に不要になると考えれば、パッケージ効率はさらに格段に高まることになる。

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