日産が6年後のEV搭載にらむ「全固体電池」の展望 既存電池と比べ何が優れ、何が実用化の壁なのか

拡大
縮小

実際にこの試作設備を見学したのだが、電池がもっとも嫌う水分を排除するためにエンジニアたちはドライルームを経てから内部に入っていた。内部の空気の水分量は真冬の東京の10分の1ほどしかないといい、2時間以上は中に居ないようにと定められているのだという。

コンタミネーション(異物混入)は即ショートにつながるなど、従来のリチウムイオンバッテリーをはるかに上回る高い生産精度が必要になることもあり、実際に量産に移される際に用意される生産ラインは、既存設備の簡単な改修くらいで済むというわけにはいかないようである。

28年度までに自社開発の全固体電池搭載BEVを投入へ

日産は2028年度までの自社開発の全固体電池を搭載したBEV(電気自動車)の市場投入を、先に発表した長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」で掲げた。そのために2024年度までに、横浜工場内に量産試作を行うパイロットラインを設置する予定であり、今回公開された試作生産設備ではそこで試作を行う仕様の材料、設計、製造プロセスの検討を行うという。

2028年という期限を切ったのはかなりチャレンジングなことであるのは間違いない。現状のリチウムイオンバッテリーだって進化しているだけに、2028年時点でのそれを上回る性能、下回るコストが実現できなければ、いくら夢の電池であろうと採用されることはないのだ。

東洋経済オンライン「自動車最前線」は、自動車にまつわるホットなニュースをタイムリーに配信! 記事一覧はこちら

「リチウムイオンバッテリーでも私たちはまさにここで、粉を混ぜるところから始めたんです。一度作った経験がありますから、開発だけでなく生産部門まで含めて今の時点から一体で、ワンチームでできている。これが日産の強みだと思っています」

土井氏はそう述べていた。BEVが本格的に普及のフェーズに入るのは、全固体電池が実用化されてからだという見方は強い。リーフの投入によりBEVで世界に先駆けた日産は、またも次の時代の扉を開け、今度こそ本当の意味での普及を実現できるのか、注目である。

島下 泰久 モータージャーナリスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

しました・やすひさ / Yasuhisa Shimashita

1972年生まれ。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。走行性能からブランド論まで守備範囲は広い。著書に『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
自動車最前線の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT