地震・豪雨災害後に重要、鉄道「迂回ルート」の役割 在来線のネットワークはいざという時必要だ

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主要幹線が長期間不通になった近年の事例としては、2018年7月の西日本豪雨がある。この際は山陽本線の線路への土砂流入や盛土の崩壊が起こり、三原―白市間の再開は9月30日、柳井―下松間は10月13日(9月9日に一度再開したが9月29日に台風被害で再び不通となった)となり、全線復旧まで約3カ月を要した。この間、地域の旅客輸送では代行バスが運行されたほか、山陽新幹線による代行も行われた。

問題は貨物である。人間のように自分で動くことはできない。まずはトラック輸送や船舶で対応したが、鉄道での代替ルート確保は必須だ。そこで、倉敷―新山口間を伯備線・山陰本線・山口線経由で迂回するルートにより、九州と名古屋を結ぶ貨物列車が運転された。

普段走らない路線でどう運行したのか

だが、山陰本線の伯耆大山―益田間、山口線の益田―新山口間では、当時貨物列車は運行されていなかった。

不通となった山陽本線を迂回して山口線を走る貨物列車(写真:F4UZR/PIXTA)

普段走らない区間ですぐに列車が運転できるわけではない。ダイヤの調整はもちろんだが、路線によって連結できる両数には制限がある。また、山陰本線と山口線は非電化のため、ディーゼル機関車がないと運転できない。この際にはDD51形ディーゼル機関車を愛知機関区から回送してきた。さらに、通常は運転しない区間のため運転士の訓練も必要になる。

また、前述の通りこの迂回区間は貨物列車が運行されていなかったため、許認可も必要となった。JR貨物はこれらの区間に対して第二種鉄道事業許可を、JR西日本は鉄道線路使用条件設定認可をそれぞれ国土交通省に申請。JR貨物の資料によるとこれは即日許可された。

これらの手間をかけて、山陰本線経由の迂回貨物列車が運行されることになった。

8月28日には下り迂回列車が、31日には上り迂回列車が運行を開始。山陽本線の復旧で9月28日にいったん終了したものの、同月30日に上陸した台風の影響で再び不通区間が発生し、10月5日から11日まで再度迂回列車を運行した。

JR貨物の資料によると、同社はこの経験を踏まえ、東海道本線・山陽本線などの主要4路線が被災した場合の代替輸送シミュレーションを実施した。迂回列車のほか、トラックによる代行支援のために応援ドライバーの宿泊施設や夜間駐車場の確保なども検討している。

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